SESの現場で指示待ちになる理由
SES契約で働くエンジニアが指示待ちの状態になるのは、SESの契約形態や業界構造に起因する構造的な問題があります。多くのエンジニアが同じ悩みを抱えており、個人の能力不足ではなくシステムそのものに原因があるケースがほとんどです。
SESの現場でエンジニアが指示待ちになる理由として、以下の4つがあります。これらは契約形態や業界構造に深く関わっており、エンジニア個人だけでは解決が難しい問題です。
- 指揮命令権が客先にあり自分で判断できない
- 契約上の制約で受け身の姿勢になる
- 評価システムが機能せずモチベーションが下がる
- 多重下請け構造で提案が通りにくい
それぞれの理由を理解することで、なぜ自分が指示待ちの状態になっているのかが明確になり、対策を立てやすくなります。以下では各理由について詳しく解説していきます。
指揮命令権が客先にあり自分で判断できない
SES契約では指揮命令権がクライアント企業にあるため、エンジニアは自分で判断して動くことができません。プロジェクトのアーキテクチャ選定や技術選定、納期設定といった重要な意思決定の場に参加する機会がなく、常に客先の指示を待つ立場に置かれます。
指揮命令権が客先にあることで生じる問題は以下のとおりです。
- 技術的な判断を自分でできない
- プロジェクトの方向性に関与できない
- 改善提案をしても決定権がない
- 当事者意識を持ちにくい環境になる
このような環境では、エンジニアとしての成長に必要な意思決定の経験を積むことができず、結果として指示待ちの姿勢が定着してしまいます。自社開発のエンジニアが1日に100以上の技術的判断を下すのに対し、SESエンジニアはその機会がほぼゼロになるため、経験値の差が大きく開いていきます。
契約上の制約で受け身の姿勢になる
SES契約は成果物ではなく労働時間に対して報酬が発生する契約形態であり、この仕組みがエンジニアを受け身の姿勢にさせる要因となっています。契約書には月160時間から180時間といった精算幅が明記され、その時間を提供することが求められます。
契約上の制約により受け身になる具体的なケースは以下のとおりです。
- 業務効率化をすると契約時間が減る懸念がある
- 自動化ツールを作っても評価されない
- 時間内に仕事を終えると新たな作業を割り振られる
- 生産性向上が自社の売上減少につながる矛盾
このような状況では、エンジニアが積極的に動くほど不利益を被る可能性があるため、言われたことだけを言われた時間内にこなす受け身の姿勢が合理的な選択となってしまいます。本来であれば評価されるべき効率化や改善活動が、契約形態の都合で抑制されてしまう構造的な問題があります。
評価システムが機能せずモチベーションが下がる
SESでは評価者が客先企業の担当者となるため、自社の上司が正確な評価をすることが困難です。多重下請け構造では各段階で情報が削られたり歪められたりするため、エンジニアの実際の働きぶりが自社に正しく伝わりません。
評価システムが機能しないことで起きる問題は以下のとおりです。
| 問題点 | 影響 |
|---|---|
| 客先からの評価が自社に届かない | 頑張っても正当に評価されず 昇給や昇格が難しい |
| 上司が業務内容を把握していない | 目標管理制度が形骸化し キャリア形成の相談ができない |
| 成果が見えにくい環境 | 仕事へのモチベーションが維持できず 指示待ちの姿勢が強化される |
評価されない環境では、能動的に動くインセンティブが失われていきます。自分の目標や成果が評価されることなく仕事を続けることになるため、次第に指示待ちの姿勢が定着し、思考力も低下していきます。
多重下請け構造で提案が通りにくい
SES業界では多重下請け構造が一般的であり、この構造がエンジニアの能動的な行動を妨げる大きな要因となっています。提案や改善案を出しても、下流から上流へと承認を得る必要があるため、実現までに時間がかかり、最終的には立ち消えになることがほとんどです。
多重下請け構造における問題点は以下のとおりです。
- 提案の承認に複数の段階を経る必要がある
- 各段階でマージンが抜かれ予算が限られる
- 下流のエンジニアの意見は軽視されやすい
- 業務改善の提案が現場に反映されない
このような環境では、どれだけ良いアイデアを持っていても実現する機会がないため、エンジニアは次第に提案することを諦め、指示待ちの姿勢に落ち着いていきます。能動的に動いてもトラブルのリスクだけが増え、何も言わずに指示に従う方が安全だと判断するようになります。
SESの現場で指示待ちを脱却する方法
SESの現場で指示待ちの状態から抜け出すためには、構造的な問題を理解した上で具体的な行動を取る必要があります。環境を変えることは簡単ではありませんが、自分でコントロールできる範囲で工夫することによって、指示待ちの状態を改善できる可能性があります。
指示待ちを脱却する方法として、以下の4つがあります。これらは実際にSES現場で働くエンジニアが実践できる具体的なアプローチであり、段階的に取り組むことで状況を改善できます。
- 積極的に質問してコミュニケーションを取る
- ユーザー視点での改善提案をする
- 自社の営業担当に現状を相談する
- スキルアップして案件を変更する
それぞれの方法には注意点やコツがあり、闇雲に実践するのではなく戦略的に取り組むことが重要です。以下では各方法について詳しく解説していきます。
積極的に質問してコミュニケーションを取る
指示待ちから抜け出す最初のステップは、積極的に質問することです。設計書に記載のない仕様や判断に迷う場面で確認を入れることによって、指示の延長線上だけでなく自分で考える機会を増やすことができます。
効果的な質問の仕方は以下のとおりです。
- 設計書の曖昧な部分を具体的に確認する
- 複数のケースを想定して判断を仰ぐ
- 実装前に方向性が合っているか確認する
- 完了後に改善点がないか聞いてみる
質問をする際は、ただ分からないことを聞くだけでなく、自分なりの考えや提案を添えることが大切です。指示した側は質問がないエンジニアを信用しない傾向があるため、適切なタイミングで確認を入れることによって、信頼関係を構築しながら指示待ちの状態から脱却できます。
ユーザー視点での改善提案をする
システムを使うユーザーの視点で改善提案をすることは、指示待ちから抜け出すための有効な手段です。技術的な提案ではなく、ユーザビリティや使いやすさに焦点を当てた提案であれば、客先の担当者も受け入れやすく、実際に採用される可能性が高まります。
ユーザー視点での提案例は以下のとおりです。
| 提案の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 画面の使いやすさ | ボタンの配置を変更すると操作しやすい エラーメッセージをより分かりやすくする |
| 業務フローの改善 | 入力項目の順番を業務の流れに合わせる 確認画面で修正箇所が分かりやすくなる工夫 |
| データの見やすさ | 一覧画面での情報の優先順位を調整 グラフや表の表示方法を改善する |
提案が採用されると仕事へのモチベーションが上がり、自分の意見が反映される経験を積むことができます。ただし、提案する際は客先の機嫌を損ねないよう配慮し、あくまでもユーザーの利便性向上という観点から伝えることが重要です。
自社の営業担当に現状を相談する
指示待ちの状態が続いている場合、自社の営業担当に現状を相談することも有効な手段です。優良なSES企業であれば、エンジニアのキャリアを考慮して案件を変更したり、客先との調整を行ったりするサポートをしてくれます。
営業担当に相談する際のポイントは以下のとおりです。
- 現場で指示待ちの状態になっている具体的な状況を伝える
- スキルアップできる環境への変更を希望する理由を説明する
- 契約更新のタイミングで案件を変えたい意志を明確にする
- 前向きな理由で相談することを心がける
SES契約は通常1ヶ月から3ヶ月の更新であるため、希望を聞いてくれる企業であれば比較的短期間で現場を変更できます。ただし、会社の売上や客先との関係しか考えていない企業の場合は、相手にされない可能性もあるため、その際は転職も視野に入れる必要があります。
スキルアップして案件を変更する
根本的に指示待ちの状態を脱却するためには、自分のスキルを向上させて、より裁量のある案件に移ることが最も効果的です。指示待ちになりやすい案件は運用保守やテスト業務など単純作業が多い傾向にあるため、開発案件に参画できるレベルまでスキルを高める必要があります。
スキルアップのための具体的な方法は以下のとおりです。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 業務時間外の学習 | プログラミングスキルを独学で習得 オンライン講座や技術書で知識を深める |
| 資格取得 | 基本情報技術者試験などの資格を取得 特定技術の認定資格を目指す |
| ポートフォリオ作成 | 個人でアプリやWebサイトを開発 GitHubで成果物を公開する |
| 転職準備 | 自社開発企業への転職を視野に入れる IT転職エージェントに登録する |
スキルが向上すれば、現在のSES企業内で別の案件に移ることも、他社への転職も選択肢として持てるようになります。指示待ちの環境に留まり続けるよりも、積極的にスキルアップすることによって、自分でキャリアをコントロールできる状態を目指すことが重要です。
SESで指示待ちの状態が続くリスク
SESの現場で指示待ちの状態が長期間続くと、エンジニアとしてのキャリアや精神面に深刻な影響を及ぼします。構造的な問題によって指示待ちになることは理解できますが、その状態を放置すると取り返しのつかない結果を招く可能性があります。
指示待ちの状態が続くことで生じるリスクとして、以下の3つがあります。これらは将来的なキャリアや収入、精神的な健康に直接関わる重要な問題であり、早期に対処する必要があります。
- 技術スキルが身につかず市場価値が下がる
- 思考力が低下して主体性を失う
- 転職が困難になりキャリアが停滞する
これらのリスクは相互に関連しており、一つの問題が他の問題を悪化させる悪循環に陥る危険性があります。以下では各リスクについて詳しく解説していきます。
技術スキルが身につかず市場価値が下がる
指示待ちの環境では新しい技術に触れる機会が少なく、同じような作業を繰り返すだけになるため、技術スキルが身につきません。自社開発企業のエンジニアが最新技術を使った開発経験を積んでいる間に、SESで指示待ちの状態にいるエンジニアは技術的な成長が止まってしまいます。
技術スキルが身につかないことで起きる問題は以下のとおりです。
- 最新の技術トレンドに追いつけない
- 特定分野の専門性が育たない
- 年齢に見合ったスキルレベルに到達できない
- 転職市場での評価が低くなる
20代のうちにスキルを身につけられなければ、30代以降で年収を上げることが非常に難しくなります。市場価値が低いまま年齢を重ねると、不況時にはリストラの対象となりやすく、転職先も見つけづらくなるため、キャリア全体に深刻な影響を及ぼします。
思考力が低下して主体性を失う
指示待ちの状態が長期間続くと、自分で考える機会が失われ、思考力そのものが低下していきます。受動的な振る舞いを続けることによって、エンジニアとしての当事者意識や問題解決能力が徐々に失われ、最終的には主体性のない人格が形成されてしまいます。
思考力低下により生じる具体的な問題は以下のとおりです。
| 問題の種類 | 具体的な症状 |
|---|---|
| 判断力の欠如 | 言われたことしかできなくなる 自分で方針を決められない |
| 問題解決能力の低下 | トラブルが起きても対処できない 課題の本質が見えなくなる |
| 創造性の喪失 | 新しいアイデアが浮かばない 改善提案ができなくなる |
| 学習意欲の減退 | 新しい技術を学ぶ意欲がなくなる 成長への関心が失われる |
思考力が低下した状態は、SESの環境では都合が良いとされることもありますが、エンジニアとしての価値を大きく損なう結果となります。一度失った思考力や主体性を取り戻すことは非常に困難であり、キャリア全体に深刻な影響を及ぼします。
転職が困難になりキャリアが停滞する
指示待ちの状態で働き続けると、アピールできる実績やスキルが蓄積されないため、転職市場での評価が低くなります。自社開発企業や受託開発企業への転職を考えても、具体的な開発経験や技術スキルがなければ、書類選考の段階で落とされてしまいます。
転職が困難になる具体的な理由は以下のとおりです。
- 職務経歴書に書ける実績が少ない
- 面接で技術的な質問に答えられない
- ポートフォリオとして見せられる成果物がない
- 専門性がなく汎用的なスキルしか持っていない
転職ができない状態が続くと、今のSES企業に留まるしかなくなり、キャリアが完全に停滞します。年齢を重ねるごとに転職のハードルは上がっていくため、指示待ちの状態から抜け出せないまま時間が経過すると、将来的な選択肢が極端に狭まってしまいます。若いうちに行動を起こさなければ、手遅れになるリスクが高まります。