SES契約の精算幅とは?法律面での注意点や設定などを解説

SES契約の精算幅とは?法律面での注意点や設定などを解説

SES契約における精算幅の法的位置づけ

SES契約における精算幅の法的位置づけ

SES契約で精算幅を設定すること自体は、法律的に問題ありません。準委任契約は民法656条に基づく適法な契約形態であり、報酬の支払い方法について当事者間で自由に定めることができます。

精算幅を設定することによって、月の営業日数の変動に応じた柔軟な報酬体系を実現できます。ただし、契約内容や実態によっては偽装請負とみなされる可能性があるため、注意が必要です。

精算幅とは何か

精算幅とは、準委任契約において設定される月間稼働時間の範囲のことです。例えば140時間から180時間という精算幅の場合、月の稼働時間がこの範囲内であれば固定の月額報酬が支払われます。

この仕組みは、プロジェクトの稼働時間の変動リスクを発注企業とエンジニア双方で分担することを目的としています。システム開発の現場では月によって作業量に波があるため、ある程度の変動を吸収する仕組みとして精算幅が設定されます。

稼働時間 報酬の扱い
精算幅の範囲内 固定の月額報酬を支払う
例:140-180時間なら同額
精算幅の上限を超過 超過単価を計算して追加報酬を支払う
例:180時間を超えた分
精算幅の下限を下回る 控除単価を計算して報酬を減額
例:140時間未満の分

一般的に多く使われている精算幅は140時間から180時間です。これは1日の標準労働時間を8時間とした場合、月の営業日数の変動をカバーする現実的な設定となっています。

準委任契約での精算幅の役割

準委任契約における精算幅は、発注企業とエンジニア双方のリスクを軽減する役割を果たしています。発注企業にとっては稼働時間の変動による費用の大幅な増減を防ぎ、予算管理が容易になります。

エンジニアにとっては、祝日が多い月や体調不良で数日休んだ場合でも、精算幅の下限を超えていれば満額の報酬を受け取ることができます。このように精算幅は、プロジェクトの柔軟な運営と収入の安定を両立させる仕組みです。

立場 メリット
発注企業 月による費用変動を抑制できる
予算管理が容易になる
繁忙期の追加費用を抑えられる
エンジニア 収入の安定性を確保できる
営業日が少ない月も減額されにくい
精算幅内の残業代が織り込まれている

ただし、精算幅を設定する際は、契約内容と実際の業務実態が一致していることが重要です。形式的には準委任契約でも、実態として指揮命令関係がある場合は法律上の問題が生じる可能性があります。

SES契約の精算幅が違法とされるケース

SES契約の精算幅が違法とされるケース

SES契約で精算幅を設定すること自体は違法ではありませんが、契約内容や実態によっては偽装請負や事実上の派遣契約とみなされる可能性があります。違法とされるケースを理解することによって、適切な契約を結ぶことができます。

以下の2つの観点から、違法性が問われる具体的な状況を解説します。

  • 偽装請負とみなされる条件
  • 指揮命令権の問題

それぞれの内容を確認することで、SES契約における精算幅設定時の法的リスクを把握できます。

偽装請負とみなされる条件

SES契約が偽装請負とみなされる最も典型的なケースは、発注企業がエンジニアに対して直接指示を出している場合です。準委任契約では業務の遂行が目的であり、発注企業に指揮命令権はありません。

しかし実態として発注企業がエンジニアを指名し、その人物に対して作業指示や管理を行っている場合、偽装請負にあたり労働基準法違反となります。このような状態では労働局から是正勧告や行政処分を受ける恐れがあります。

違法となる行為 具体例
エンジニアへの直接指示 発注企業が業務内容や方法を細かく指示
作業時間や場所を拘束
日々の進捗管理を直接実施
エンジニアの指名 特定のエンジニアを指名して配置
SES企業の判断を無視した人選
エンジニアの交代を拒否
労働時間の管理 発注企業が勤怠管理を実施
残業や休日出勤の指示
有給休暇の承認を実施

偽装請負とみなされた場合、発注企業は法的責任を問われるだけではなく、社会的信用の失墜にもつながります。エンジニア側も労働者としての権利を主張できるため、契約関係が複雑化する可能性があります。

指揮命令権の問題

SES契約における指揮命令権の所在は、違法性を判断する重要なポイントです。準委任契約では指揮命令権はSES企業またはエンジニア本人にあり、発注企業にはありません。

発注企業が稼働時間を把握して報酬を請求する行為や、エンジニアに対して具体的な作業指示を出す行為は、実質的な雇用関係とみなされます。この場合、労働基準法や職業安定法に違反する可能性が高くなります。

契約形態 指揮命令権 違法性のリスク
準委任契約(適正) SES企業またはエンジニア本人
発注企業は業務の依頼のみ
リスクなし
適法な契約関係
準委任契約(偽装請負) 実質的に発注企業が保有
直接的な指示や管理を実施
リスク高
労働基準法違反の可能性
派遣契約 発注企業(派遣先)が保有
適法に指揮命令が可能
リスクなし
派遣法に基づく適法な契約

契約書には準委任契約と記載されていても、実態が伴っていなければ偽装請負とみなされます。そのため、契約内容と実際の業務遂行方法が一致していることを常に確認する必要があります。

SES契約で精算幅を適法に設定する条件

SES契約で精算幅を適法に設定する条件

SES契約で精算幅を適法に設定するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。単に契約書に精算幅を記載するだけではなく、労働基準法に準拠した運用が求められます。

以下の3つの観点から、適法に精算幅を設定するための条件を解説します。

  • 契約書に明記すべき事項
  • 労働基準法との関係
  • 36協定の必要性

これらの条件を満たすことによって、法的リスクを回避しながら精算幅を活用できます。

契約書に明記すべき事項

SES契約で精算幅を設定する際は、契約書に具体的な内容を明記することが重要です。精算幅の上限と下限の時間数、超過単価と控除単価の計算方法、精算の締め日とタイミングを明確にしましょう。

契約書に曖昧な記載があると、後々のトラブルにつながります。特に営業日が少ない月の扱いや、クライアント都合での稼働停止時の補償について事前に定めておくことが重要です。

明記すべき項目 具体的な内容
精算幅の範囲 下限時間と上限時間を明記
例:140時間から180時間
週の稼働日数に応じた調整
計算方法 上下割か中間割かを明記
超過単価の計算式
控除単価の計算式
精算のタイミング 稼働時間の締め日
精算書の提出期限
支払いサイト
特殊ケースの扱い 営業日が少ない月の按分
月途中参画時の日割り計算
クライアント都合の稼働停止時の補償

また、業務内容についても明確に定義することで、想定外の追加費用が発生するリスクを低減できます。成果物と納品期限が明確であれば、双方の認識のずれを防ぐことができます。

労働基準法との関係

SES契約では労働基準法が適用されるため、精算幅を設定する際も同法の規定を遵守する必要があります。特に全額支払いの原則と時間外労働の上限規制に注意しましょう。

労働基準法第24条に定められた全額支払いの原則は、労働者に対してその実労働時間に応じた賃金を支払わなければならないというものです。精算幅を設定する場合でも、実際の稼働時間を1分単位で正確に記録し、その記録を保存することが必要です。

労働基準法の規定 精算幅設定時の注意点
全額支払いの原則(第24条) 実労働時間を1分単位で記録
15分単位や30分単位の切り捨ては違法
遅刻や早退も正確に記録
時間外労働の上限(第32条) 月45時間、年360時間が原則上限
36協定の締結が必要
精算幅の上限が適切か確認
労働時間の把握義務 使用者が労働時間を適正に把握
タイムカードやメールなどで証拠を残す
自己申告制の場合は適正な運用が必要

精算幅の上限が極端に高い場合、時間外労働の上限規制に抵触する可能性があります。例えば精算幅が100時間から250時間といった設定は、不当な労働条件として問題視される可能性が高いです。

36協定の必要性

SES契約でエンジニアに精算幅を超える残業を依頼する場合、36協定の締結が必須です。36協定とは、会社が従業員に残業や休日出勤をさせるための許可を得るための契約のことです。

通常、労働法では1日8時間、週40時間を超える働き方は違法とされますが、36協定を労働組合や従業員代表と結ぶことで、決められた範囲で残業や休日出勤が認められます。協定を結んでいない場合、残業を命じることはできません。

36協定の内容 精算幅との関係
時間外労働の上限 月45時間、年360時間が原則
精算幅の上限設定に影響
上限を超える設定は要注意
特別条項 臨時的な特別の事情がある場合
年6か月まで月45時間超が可能
上限は月100時間未満
届出の必要性 労働基準監督署への届出が必須
協定なしの残業は違法
精算幅を超える稼働時も適用

SES企業では、エンジニアが発注企業の指示に従うことが多いため、36協定の内容が形骸化することが問題です。エンジニアとしては、36協定に基づく労働環境の整備が求められるほか、発注企業の残業指示が36協定に則っているか確認しましょう。

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