SES企業が潰れる状況と倒産件数の推移
SES業界において、企業の倒産が増加傾向にあることをご存知でしょうか。2024年はソフトウェア業の倒産件数が過去10年で最多を記録し、特に中小規模のSES企業が厳しい状況に直面しています。
それぞれの状況は深刻さを増しており、今後SES業界で働く人や経営者にとって重要な情報です。以下では、SES企業が潰れる状況と倒産件数の推移について詳しく解説していきます。
2024年のソフトウェア業倒産件数
東京商工リサーチによると、2024年のソフトウェア業の倒産件数は220件に達し、過去10年間で最多を記録しました。前年比で1.4倍という急激な増加となり、業界全体に大きな衝撃を与えています。
倒産件数の内訳は以下のとおりです。
| 企業規模 | 倒産件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 資本金1千万円未満 | 258件 | 80%以上 |
| 従業員10人未満 | 176件 | 80%以上 |
この数字からわかるように、倒産する企業の大半は資本金が少なく従業員数も少ない小規模事業者です。大手SES企業と比較すると、中小規模の企業は資金力や営業力の面で不利な状況にあり、倒産リスクが高まっています。
SES企業の倒産が増加している背景
SES企業の倒産が増加している背景には、複数の要因が絡み合っています。エンジニアバブルの崩壊と求められるスキルの高度化により、未経験者や微経験者向けの求人が激減したことが大きな要因です。
主な背景として、以下のような点が挙げられます。
- 2018年以降のSES業界への異業種参入増加
- 未経験エンジニアの大量採用と配属先不足
- 生成AIの進化による単純作業の需要減少
- スタートアップ投資の縮小による案件減少
- 無計画な借入による資金繰りの悪化
特に2018年以降、デジタル人材不足が叫ばれる中でSES業界に新規参入した企業の多くは、表面的な知識だけで事業を開始し、エンジニアの育成ノウハウや営業力を持たないまま運営していました。その結果、配属先を見つけられないエンジニアが増加し、経営が行き詰まるケースが続出しています。
中小規模SES企業の倒産が多い理由
中小規模のSES企業が倒産しやすい理由は、事業構造の脆弱性にあります。大手企業と比較して資金力や信用力が低く、急な環境変化に対応できないためです。
中小規模SES企業が抱える課題は以下のとおりです。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| 資金力の不足 | 手元資金が少なく 支払いサイトの長期化に耐えられない |
| 営業力の弱さ | 大手クライアントとの取引実績がなく 多重下請けの下層に位置する |
| 人材確保の困難 | 高い給与を提示できず 優秀なエンジニアを採用できない |
| 教育体制の未整備 | 研修ノウハウがなく 未経験者を育成できない |
これらの課題が重なることによって、中小規模のSES企業は待機要員の増加や支払い遅延といった問題に直面しやすく、黒字倒産や赤字倒産のリスクが高まります。一方で、大手SES企業は豊富な資金と営業ネットワークを持つため、不況下でも生き残る可能性が高いのです。
SES企業が潰れる主な原因
SES企業の倒産には、黒字倒産と赤字倒産という2つのパターンがあります。利益が出ているにもかかわらず資金繰りが悪化して倒産するケースと、支出が収入を上回って資金が尽きるケースがあり、それぞれ異なる原因で発生します。
SES企業が潰れる主な原因として、以下の3つがあります。
- 黒字倒産
- 赤字倒産
- 未経験エンジニア大量採用の失敗
それぞれの原因は、SES業界特有の事業構造に起因しており、事前に理解しておくことで倒産リスクを回避できます。以下では、SES企業が潰れる主な原因について詳しく解説していきます。
黒字倒産する原因
黒字倒産とは、収入が支出より大きく利益が出ているにもかかわらず、売上が回収できるまでの期間のズレによって会社が支払不能に陥り倒産してしまうことです。SES業界では、多重下請け構造による支払いサイトの長期化が黒字倒産の主な原因となっています。
支払いサイトによる黒字倒産のメカニズムは以下のとおりです。
| 商流の階層 | 支払いサイト | 入金までの期間 |
|---|---|---|
| 発注元と元請け | 30日 | 約1ヶ月後 |
| 元請けと二次請け | 40日 | 約1.3ヶ月後 |
| 二次請けと三次請け | 50日以上 | 約2ヶ月後 |
SES企業は自社でエンジニアを正社員として雇用しているため、毎月給料を支払わなくてはなりません。しかし、商流が深くなるほど入金が遅れるため、入金前に給料を支払う必要が生じます。手元資金が不足している企業は、この支払いサイトのズレに耐えられず、利益が出ているにもかかわらず支払不能に陥って黒字倒産してしまうのです。
赤字倒産する原因
赤字倒産とは、収入よりも支出が多く資金が尽きてしまうことによって倒産することです。SES企業では、案件にアサインできない待機要員の増加が赤字倒産の主な原因となっています。
待機要員による赤字倒産のリスクは以下のとおりです。
- 待機要員は案件にアサインされていなくても給料が発生する
- 待機要員が2人、3人と増えると支出が重なる
- アサイン先が見つからない期間が長引くと赤字が膨らむ
- 採用媒体の広告費など固定経費も毎月かかる
- 手元資金が少ない企業は給料の支払いに行き詰まる
待機要員が発生する主な原因は、エンジニアのスキル不足、案件情報の少なさ、営業力不足の3つです。特に未経験エンジニアを大量採用したものの、育成体制が整っていない企業や、営業ネットワークが弱い企業では、待機要員が増加しやすく赤字倒産のリスクが高まります。
未経験エンジニア大量採用の失敗
未経験エンジニアを大量に採用したものの、配属先が見つからず倒産に追い込まれるSES企業が増加しています。2018年以降、エンジニア不足を背景にSES業界への新規参入が相次ぎましたが、育成ノウハウや営業力を持たない企業が多く、結果として大量の待機要員を抱えることになりました。
未経験エンジニア大量採用の失敗事例として、以下のような状況が報告されています。
| 失敗のパターン | 具体的な内容 |
|---|---|
| IT業務以外へのアサイン | コールセンター、警備員 自動車産業の期間工などに配置 |
| 研修と称した放置 | 研修期間中に勉強させるだけで 実際のIT案件には関われない |
| 体制現場の不在 | 先輩社員がいる現場がなく 未経験者を受け入れる環境がない |
| 借入返済の行き詰まり | 採用費や人件費を借入で賄い 返済に行き詰まって廃業 |
未経験エンジニアは実務経験がないため、スキルシートに記載できる経験がなく、案件にアサインすることが非常に困難です。体制を組める現場を持つSES企業であれば、先輩社員の信頼を頼りに未経験者を受け入れてもらえますが、未経験者ばかりを採用する企業にはそのような現場がありません。その結果、エンジニアになれるという約束は果たされず、待機要員として給料だけが発生し続け、最終的に倒産に至るのです。
倒産リスクが高いSES企業の特徴
SES企業への就職や転職を検討する際、倒産リスクが高い企業を見極めることは非常に重要です。経営が不安定な企業に入社してしまうと、突然の倒産によってキャリアに大きな影響を受ける可能性があります。
倒産リスクが高いSES企業の特徴として、以下の4つがあります。
- 未経験を大量に採用する企業
- 異常に高い還元率を掲げている企業
- 本社機能にエンジニア出身者がいない企業
- 営業力が弱い企業
それぞれの特徴は、経営の脆弱性やビジネスモデルの持続可能性の低さを示しており、倒産リスクを判断する重要な指標です。以下では、倒産リスクが高いSES企業の特徴について詳しく解説していきます。
未経験を大量に採用する企業
未経験エンジニアばかりを大量に採用しているSES企業は、倒産リスクが非常に高いといえます。SES業界では実務経験が評価の大前提であり、未経験者を継続的にアサインできる体制を持たない企業は、待機要員の増加によって経営が行き詰まりやすいためです。
未経験大量採用企業の問題点は以下のとおりです。
- 体制を組める現場がないため未経験者をアサインできない
- 研修と称して非IT現場にアサインされるケースが多い
- エンジニアになれるという約束が果たされない
- 待機要員の人件費が経営を圧迫する
- 借入金の返済に行き詰まりやすい
未経験からSES業界でエンジニアになれる企業も存在しますが、それは先輩社員たちが築いた現場への信頼があり、未経験者を所属会社で面倒を見る体制が整っている場合に限られます。未経験者しか採用していない企業には、そのような体制がないため、将来的にエンジニアになれる可能性も低いのです。
異常に高い還元率を掲げている企業
還元率90%超えなど異常に高い還元率を掲げているSES企業は、倒産リスクが高いといえます。高還元は会社の利益を削っていることを意味し、固定費や税金の支払いに必要な資金を確保できない可能性が高いためです。
還元率と企業の健全性の関係は以下のとおりです。
| 還元率の水準 | 企業の状態 | 倒産リスク |
|---|---|---|
| 65%から75%程度 | 適切な利益を確保しながら 社員に還元している |
低い |
| 80%から85%程度 | 高還元だが 他事業で利益を補填している可能性 |
中程度 |
| 90%超え | 固定費や納税の資金が不足 会社の継続が困難 |
非常に高い |
会社は継続することが前提であり、人件費だけでなく家賃や広告宣伝費などの固定費、税金の支払いに十分な利益を確保する必要があります。高還元しすぎると会社は倒産の危機を迎えるといっても過言ではありません。実際に、社員数150名規模の企業が、利益が少ないにもかかわらず経営者が浪費を続けた結果、倒産に追い込まれた事例も報告されています。
本社機能にエンジニア出身者がいない企業
経営陣や本社機能にエンジニア出身者が1人もいないSES企業は、エンジニアのキャリア形成や悩みに対して適切なサポートを提供できず、離職率が高まる傾向があります。その結果、人材の定着率が低く、経営が不安定になりやすいのです。
エンジニア出身者の有無による違いは以下のとおりです。
| 本社メンバーの構成 | エンジニアへの影響 |
|---|---|
| エンジニア出身者がいる | 現場の悩みを理解してもらえる キャリア形成の相談ができる 技術的な視点でアドバイスを受けられる |
| エンジニア出身者がいない | 現場の状況を理解してもらえない キャリア相談の質が低い 営業視点だけの判断になりやすい |
SES業界で働くエンジニアは、現場を多く変わるため人間関係を都度構築する必要があり、ストレスがかかる場面が多くなります。相談するために頼りにしている人が現場経験を持たない場合、適切なアドバイスを受けられず、不安や不満が蓄積していきます。営業側から見るSES業界とエンジニア側から見るSES業界という2つの視点があることが、キャリア形成では非常に重要なのです。
営業力が弱い企業
営業力が弱いSES企業は、案件の獲得が難しく待機要員が増加しやすいため、倒産リスクが高まります。特に大手クライアントとの取引実績がなく、多重下請けの下層に位置する企業は、案件が減少した際に真っ先に契約を切られる立場にあります。
営業力が弱い企業の特徴として、以下のような点が挙げられます。
- 初回の打ち合わせに営業担当者が現れない
- 入社日に営業担当者が不在
- BP制度の連絡に対して返信がない
- 案件情報を共有するネットワークが少ない
- スキルシートの作成や面談対策が不十分
SES業界では、案件を相互に融通し合うBP制度が存在しており、営業ネットワークを広く持つことが重要です。しかし、新興SES企業の中には、基本的なビジネスマナーすら守れない企業が増えており、信頼を失って案件を獲得できなくなっています。案件が多い時期に積極的に営業活動を行い、BPとの関係を築いておくことが、倒産を防ぐために不可欠なのです。
SES企業の倒産を防ぐ方法
SES企業を経営する立場にある方や、これからSES事業を立ち上げる方にとって、倒産を防ぐための対策を講じることは極めて重要です。支払いサイトの問題や待機要員の増加といったSES業界特有のリスクに備えることによって、安定した経営を実現できます。
SES企業の倒産を防ぐ方法として、以下の3つがあります。
- 手元資金を増やす
- 待機要員を増やさない
- キャッシュフローを把握する
それぞれの方法は、黒字倒産と赤字倒産の両方のリスクを軽減するために有効であり、経営の安定性を高める基盤となります。以下では、SES企業の倒産を防ぐ方法について詳しく解説していきます。
手元資金を増やす
手元資金を十分に確保することは、SES企業が倒産を防ぐための最も重要な対策です。支払いサイトの問題や待機問題は、創業初期から発生する可能性が高く、資金が不足していると給料の支払いや固定経費の支払いに行き詰まってしまいます。
手元資金を増やす方法と必要額の目安は以下のとおりです。
| 資金確保の方法 | 内容 |
|---|---|
| 創業融資の活用 | 日本政策金融公庫などから融資を受ける 1000万円程度の資金確保が望ましい |
| 経費の事前計算 | 人件費、広告費、その他活動経費を予め算出 3ヶ月から6ヶ月分の運転資金を確保 |
| 利益の内部留保 | 高還元しすぎず適切な利益率を維持 会社の残高を常に最大にする |
創業融資を活用して1000万円程度は手元に現金があった方が、支払いサイトのズレによる資金ショートを防げます。また、エンジニアを採用するために採用媒体を利用する必要があるため、人件費以外の固定経費も毎月かかってきます。これらを予め計算し、十分な資金を確保しておくことが、安定経営の第一歩なのです。
待機要員を増やさない
待機要員を増やさないことは、赤字倒産を防ぐために不可欠な対策です。待機要員が多ければ多いほど会社にとってマイナスになり、運転資金が少ない場合は採用も抑制した方が良いといえます。
待機要員を増やさないための具体策は以下のとおりです。
- エンジニアのスキル不足を解消する研修体制を整える
- 積極的にBPを増やして案件情報を多く得る
- スキルシート作成や面談対策など営業力を強化する
- 案件が多い時期に決めきる営業体制を構築する
- 案件詳細とエンジニアのスキルマッチングを徹底する
待機要員が発生する主な原因は、エンジニアのスキル不足、案件情報の少なさ、営業力不足の3つです。案件詳細に合ったエンジニアを提案できているか、スキルシートに不備はないかを細かく確認しましょう。また、案件は急に増えたり減ったりと波があるため、案件が多い時に集中して営業活動を行い、複数の案件を決めておくことが重要です。
キャッシュフローを把握する
キャッシュフローを正確に把握することは、倒産を防ぐための基本中の基本です。限られたキャッシュを循環させるためには、キャッシュフローの安定が不可欠であり、キャッシュインが遅れている場合やキャッシュアウトが多すぎる場合は倒産のリスクが高まります。
キャッシュフロー管理のポイントは以下のとおりです。
| 管理項目 | 確認内容 |
|---|---|
| キャッシュイン | 支払いサイトの確認 入金予定日の把握 遅延している取引先の特定 |
| キャッシュアウト | 人件費の支払い予定 固定経費の支払い予定 広告費や外注費の管理 |
| 資金残高 | 月末時点の資金残高 翌月の支払い能力 追加融資の必要性 |
SESに関しては、支払いサイトの関係上、正社員の給料を立替えなくてはならない場合があるため、特に注意が必要です。年間のキャッシュフロー把握では経営に支障をきたす恐れがあるため、月間でキャッシュフローを把握するようにしましょう。毎月の入金と支出を正確に記録し、資金繰り表を作成して、常に資金状況を確認できる体制を整えることが重要なのです。
SES企業の今後と生き残る条件
SES業界を取り巻く環境は、生成AIの進化や市場の変化によって大きく変わりつつあります。今後SES企業が生き残るためには、従来のビジネスモデルだけでなく、新たな価値提供ができる体制を構築することが求められています。
それぞれの要素は、今後のSES業界の方向性を示しており、経営者やSES企業で働くエンジニアにとって重要な情報です。以下では、SES企業の今後と生き残る条件について詳しく解説していきます。
生成AIにおける会社への影響
生成AIの進化は、SES業界に大きな影響を与えています。単純なコーディング作業や基礎的なプログラミング業務は、AIによって効率化されつつあり、未経験や微経験者の仕事が減少しています。また、3年から5年後には、AGI(人工汎用知能)がさらに使えるようになり、一般企業が自社でシステム開発を行う時代が到来すると予測されています。
生成AIがSES業界に与える影響は以下のとおりです。
| 影響の領域 | 具体的な変化 |
|---|---|
| 未経験者の需要 | 単純作業がAIに代替され 未経験者向けの求人が激減 |
| 外注の減少 | 企業がAIを活用して自社開発を行い SES企業への発注が減少 |
| 単価の下落 | プログラムを書くだけのエンジニアの 単価が下落する |
| 不況時の影響 | 不況が訪れると独立系SESから 真っ先に契約が打ち切られる |
セールスフォースが2025年にエンジニアを採用しないと発表したことは、生成AIの躍進を象徴する出来事です。大手企業ですらAIの影響を受けているため、SES業界が受ける影響は深刻といえます。今後、SES企業が生き残るためには、AIが不得意とする領域に特化していく必要があるのです。
生き残るSES企業の条件
今後のSES業界で生き残るためには、AIに代替されない価値を提供できる企業になることが不可欠です。単にエンジニアを派遣するだけのビジネスモデルでは、市場の変化に対応できず、倒産のリスクが高まります。
生き残るSES企業の条件は以下のとおりです。
- AI導入に障壁がある分野への特化(金融・公共・医療など高い専門性やセキュリティーが求められる分野)
- 発注者の思いを言語化する能力を持つコンサルタントやPdMの育成
- 品質保証やコードレビューなど責任を取る立場の強化
- プログラミングとIT知識を活かしたDXエンジニアとしての活動
- 未経験者を育成できる体制と実績のある現場の確保
- エンジニア最優先のスキルアップと報酬アップ制度
- 自社開発や受託開発など複数の事業展開
- 大手クライアントや国家プロジェクトとの直接取引
特に、国家プロジェクトやナショナルクライアントのDX案件を獲得できているSES企業は、現時点では好調を維持しています。太いクライアントから大きな請求が見込める案件であれば、2次請け、3次請けでも待遇が改善されているため、直請けに固執するよりも、安定した案件を確保することが重要です。また、SESだけに留まらず、自社で利益を生み出す動きをしている企業は、今後も生き残っていくでしょう。