SESとは何か
SESとは、System Engineering Service(システムエンジニアリングサービス)の略称で、IT業界における契約形態の一つです。SESでは、エンジニアの技術力や専門スキルを一定期間クライアント企業に提供するサービスを指します。
SESを理解するために、以下の3つの用語を押さえておくとよいでしょう。これらの用語は密接に関連しており、SESのビジネスモデルを理解する上で欠かせない要素となります。
- SESの意味と定義
- SES企業とは
- SES契約とは
各用語について、以下で詳しく解説していきます。
SESの意味と定義
SESは、クライアント企業が必要とする技術力や人材を、一定期間提供するサービスのことです。具体的には、システム開発やネットワーク構築、運用保守など、エンジニアの専門スキルが求められる業務に対して、労働力を提供することによって報酬を受け取ります。
SESの特徴は、成果物の完成を約束する請負契約とは異なり、業務の遂行そのものに対して報酬が支払われる点にあります。準委任契約と呼ばれるこの契約形態では、エンジニアが業務を遂行することによって対価を得られるため、納品物の完成責任を負いません。
SES企業とは
SES企業とは、SESを主な事業として提供する企業のことです。SES企業は、エンジニアを正社員として雇用し、クライアント企業のプロジェクトに派遣することによって収益を得ています。
日本には現在10,000社以上のSES企業が存在するといわれており、その多くが30名規模の中小企業です。一方で、富士ソフトやシステナのように、数千名規模の大企業も存在しています。
| 企業規模 | 特徴 |
|---|---|
| 中小規模 (30名程度) |
案件の種類が限定的になりやすい 柔軟な働き方を実現しやすい |
| 大規模 (数百名以上) |
多様な案件を扱っている 研修制度や福利厚生が充実している傾向 |
SES企業の中には、SESだけではなく請負契約でのシステム開発や、派遣契約に基づく労働者派遣を行っているケースもあります。複数の事業を展開することによって、エンジニアに多様なキャリアパスを提供している企業も増えています。
SES契約とは
SES契約とは、SESを受発注する際に取り交わされる契約のことです。法律的には準委任契約に該当し、エンジニアの労働時間に対して報酬が支払われます。
SES契約の最も重要な特徴は、指揮命令権がSES企業側にある点です。クライアント企業はエンジニアに対して直接業務指示を出す権利を持たず、SES企業を通じて間接的に要望を伝える形になります。
| 項目 | SES契約の特徴 |
|---|---|
| 契約形態 | 準委任契約 |
| 報酬対象 | 労働時間に対して支払われる |
| 指揮命令権 | SES企業にある |
| 成果物責任 | 負わない |
SES契約では、契約期間中にエンジニアが業務を遂行することによって報酬を受け取れるため、収入が安定しやすいというメリットがあります。一方で、成果に応じた高額報酬は期待しにくいという側面もあります。
SESと派遣・SIer・請負契約との違い
SESは、派遣契約や請負契約、SIerとよく混同されます。これらは似ているようで異なる契約形態や事業形態であり、それぞれに明確な違いがあります。
SESを理解する上で重要な3つの違いについて、以下で詳しく解説していきます。指揮命令権の所在や報酬の対象、提供するサービスの内容など、それぞれの特徴を把握することによって、SESの位置付けが明確になります。
- SESと派遣契約の違い
- SESとSIerの違い
- SESと請負契約の違い
各違いについて、以下で詳しく解説していきます。
SESと派遣契約の違い
SESと派遣契約の最も大きな違いは、指揮命令権の所在です。SES契約では指揮命令権がSES企業にあるのに対し、派遣契約では派遣先企業に指揮命令権があります。
派遣契約の場合、エンジニアは派遣先企業の責任者から直接業務の指示を受けて働きます。残業や休日出勤の命令も派遣先企業から出されるため、派遣先企業の就業規則に従って働くことになります。
| 項目 | SES契約 | 派遣契約 |
|---|---|---|
| 指揮命令権 | SES企業 | 派遣先企業 |
| 労務管理 | SES企業 | 派遣先企業 |
| 報酬対象 | 労働時間 | 労働時間 |
| 常駐の有無 | 常駐しない場合もある | 常駐が前提 |
| 法的根拠 | 労働者派遣法の対象外 | 労働者派遣法の対象 |
SES契約では、クライアント企業がエンジニアに直接指示を出すことはできません。業務内容の変更や残業の依頼がある場合、クライアント企業はまずSES企業に連絡し、SES企業がエンジニアに指示を伝えるという流れになります。
SESとSIerの違い
SESとSIerの違いは、提供するサービスの内容にあります。SESがエンジニアの労働力を提供するのに対し、SIerはシステム開発全般を一括で請け負い、成果物を納品するサービスを提供しています。
SIerとは、System Integrator(システムインテグレーター)の略称で、IT戦略の立案から設計、開発、運用、保守までを一貫して請け負う企業のことです。SIerは要件定義や基本設計といった上流工程を担当することが多く、プロジェクト全体の責任を負います。
| 項目 | SES | SIer |
|---|---|---|
| 提供するもの | エンジニアの労働力 | システム開発の成果物 |
| 契約形態 | 準委任契約 | 請負契約が中心 |
| 報酬対象 | 労働時間 | 成果物 |
| 成果物責任 | 負わない | 負う |
| 主な業務 | 開発・テスト・運用保守など | 要件定義・設計・開発全般 |
実務上、SIerがSES企業と契約してエンジニアの能力を借りることは非常に多くあります。大規模なプロジェクトでは、SIerが元請けとして全体を統括し、SES企業のエンジニアが開発やテストといった実作業を担当するという構図が一般的です。
SESと請負契約の違い
SESと請負契約の違いは、報酬の対象と成果物への責任の有無です。SES契約では労働時間に対して報酬が支払われるのに対し、請負契約では成果物に対して報酬が支払われます。
請負契約では、発注者に成果物を納品する義務があり、完成したシステムの品質に対して責任を負います。そのため、納期が迫っている場合には残業や休日出勤が発生しやすく、成果物の完成までエンジニアが作業を続ける必要があります。
| 項目 | SES契約 | 請負契約 |
|---|---|---|
| 報酬対象 | 労働時間 | 成果物 |
| 成果物責任 | 負わない | 負う |
| 指揮命令権 | SES企業 | 請負企業 |
| 労働時間 | 契約で定められた時間 | 成果物完成まで |
SES契約では成果物への責任を負わないため、契約で定められた時間を超える労働を求められることは基本的にありません。一方で、請負契約では成果物を完成させることが最優先となるため、場合によっては長時間労働が発生することもあります。
SESエンジニアの仕事内容
SESエンジニアは、専門的な知識やスキルを活かしてクライアント企業のプロジェクトに貢献します。担当する案件の性質や求められる技術によって、仕事内容は大きく異なります。
SESエンジニアの主な職種として、以下の3つが挙げられます。それぞれの職種で求められるスキルや業務内容が異なるため、自分の興味や適性に合った職種を選ぶことが大切です。
- システムエンジニア
- プログラマー
- インフラエンジニア
各職種について、以下で詳しく解説していきます。
システムエンジニア
システムエンジニアは、システム開発のプロジェクト全般に関わるエンジニアです。クライアントからヒアリングした要望をもとに、システムの要件を定義し、設計書を作成します。
システムエンジニアは、プログラミングの知識だけではなく、クライアントのニーズを正確に汲み取るヒアリング力や、プロジェクトメンバーをまとめるマネジメント能力も求められます。上流工程を担当することが多いため、技術力に加えて総合的なビジネススキルが必要です。
| 業務内容 | 詳細 |
|---|---|
| 要件定義 | クライアントの要望を整理し システムの機能を明確化する |
| 基本設計 | システム全体の構成や 各機能の仕様を決定する |
| 詳細設計 | プログラミングに必要な 詳細な仕様を作成する |
| 進行管理 | プロジェクトの進捗を管理し 問題が発生した際に対処する |
システムエンジニアは、プロジェクトの上流工程を担当するため、SES企業の中でも比較的高い報酬を得られる職種です。ただし、クライアントや協力会社との折衝が多いため、高いコミュニケーション能力や調整力が求められます。
プログラマー
プログラマーは、システムエンジニアが作成した設計書や仕様書をもとに、プログラミング言語を用いて実際のシステムやアプリケーションを作成します。コードを書くだけではなく、動作テストやバグの修正も担当します。
プログラマーには、担当案件で使用するプログラミング言語の知識が必要です。Java、JavaScript、Python、Ruby、PHPなどが主要な言語として挙げられます。複数の言語を習得することによって、より多くの案件に対応できるようになります。
| 業務内容 | 詳細 |
|---|---|
| プログラミング | 設計書をもとにコードを記述し システムの機能を実装する |
| 単体テスト | 作成したプログラムが 正しく動作するか確認する |
| バグ修正 | テストで発見された不具合を 特定し修正する |
| ドキュメント作成 | プログラムの仕様や 修正内容を文書化する |
プログラマーは、SESエンジニアとして未経験から始めやすい職種です。基本的なプログラミングスキルを習得すれば、多くの案件にチャレンジできるため、エンジニアとしてのキャリアをスタートさせる際に適しています。
インフラエンジニア
インフラエンジニアは、ITインフラの設計、構築、運用、保守を担当するエンジニアです。ネットワークエンジニアやサーバーエンジニア、データベースエンジニアなどの職種が含まれ、それぞれが専門領域を持っています。
インフラエンジニアには、ネットワークやサーバー、データベースなどITインフラ全体の仕組みに関する知識が求められます。また、セキュリティに関する知識も重要です。安全なシステム環境を構築し、維持するために、常に最新の技術動向を把握する必要があります。
| 職種 | 主な業務内容 |
|---|---|
| ネットワーク エンジニア |
ネットワークの設計、構築、運用、保守 通信環境の最適化やトラブル対応 |
| サーバー エンジニア |
サーバーの設計、構築、運用、保守 OSやミドルウェアの設定と管理 |
| データベース エンジニア |
データベースの設計、開発、運用、管理 データの利活用を支える基盤構築 |
インフラエンジニアは、システムの基盤を支える重要な役割を担っています。クラウドサービスの普及により、AWSやAzureといったクラウド技術に精通したインフラエンジニアの需要が高まっています。
SESとして働くメリット
SESとして働くことには、未経験からエンジニアとしてのキャリアをスタートしやすい点や、多様なプロジェクトに参加できる点など、多くのメリットがあります。労働時間に対して報酬が支払われるため、収入が安定しやすいという特徴もあります。
SESで働く主なメリットとして、以下の3つが挙げられます。これらのメリットを活かすことによって、エンジニアとしてのスキルアップやキャリア形成につなげることができます。
- 未経験からの就職
- 多様な経験
- 人脈構築
各メリットについて、以下で詳しく解説していきます。
未経験からの就職
SESで働く最大のメリットは、未経験からエンジニアとしてのキャリアをスタートしやすい点です。ITエンジニアは専門的な知識やスキルが求められる仕事であるため、就職には実務経験が必要となるケースが少なくありません。
しかし、SES企業は多くのプロジェクトを抱えているため、テスト工程や簡易なツールの作成など、実務経験が少ないエンジニアでも担当できる案件を持っています。未経験者を対象とした研修プログラムによって、プロジェクトへの参加に必要な知識やスキルの習得をサポートしているSES企業も増えています。
| 未経験者向けの特徴 | 詳細 |
|---|---|
| 研修制度の充実 | 配属前に基本的な知識やスキルを学べる 研修プログラムが用意されている |
| 段階的な成長機会 | テストや運用保守から始め 徐々に開発業務にステップアップできる |
| 先輩のサポート体制 | 同じSES企業の先輩エンジニアと 一緒に案件に参加できる機会が多い |
IT業界は慢性的な人手不足に悩まされており、SESエンジニアのニーズは拡大傾向にあります。未経験からエンジニアになりたいと考えている人にとって、SESは有効な選択肢となります。
多様な経験
SESで働くことによって、さまざまなクライアントのプロジェクトに参加する機会が得られます。異なる業界やクライアントのプロジェクトに携わることで、幅広い経験を積むことができ、さまざまな技術や業務領域に触れることでスキルを磨けます。
自社の製品やサービスを開発している事業会社のエンジニアとは異なり、SESエンジニアには多様なプロジェクトに参加する機会があります。時には大手企業の有名サービスの開発に携わるチャンスも得られます。
| 多様な経験の内容 | 詳細 |
|---|---|
| 業界の幅広さ | 金融、製造、流通、医療など さまざまな業界のシステムに携われる |
| 技術の多様性 | プロジェクトごとに異なる言語や フレームワーク、ツールを経験できる |
| 先端技術への接触 | AI、IoT、クラウドなどの 最新技術に触れる機会がある |
多様なプロジェクトを経験することで、特定の技術に偏らず、幅広いスキルセットを身につけられます。将来の転職やキャリアアップにおいて、この経験が大きな強みになります。
人脈構築
SESエンジニアは、クライアント企業をはじめとする他の企業に所属する人々と協力してプロジェクトを遂行するため、ビジネスのコネクションや人脈を広げやすいという特徴があります。プロジェクトごとに新しいメンバーと協力して働くため、社内外を問わず人脈を広げる機会に恵まれています。
さまざまな企業や業界の専門家との関係を築くことで、将来の仕事の機会やキャリアの発展につながる可能性があります。クライアント先や他のSES企業から技術が認められれば、転職の相談に乗ってもらえることもあります。
| 人脈構築の機会 | 詳細 |
|---|---|
| SIerとの接点 | 上流工程を担当するSIerの社員と 協力して働く機会が多い |
| 他社エンジニアとの交流 | 他のSES企業のエンジニアと 同じプロジェクトで働くことが多い |
| クライアント企業との関係 | 長期案件では信頼関係を築き 次の案件にも声がかかることがある |
構築した人脈は、技術的な相談や情報交換の場として活用できるだけではなく、転職やフリーランスとして独立する際の貴重な資産になります。積極的にコミュニケーションを取ることで、キャリアの可能性を広げられます。
SESとして働くデメリット
SESで働くことには、メリットだけではなくデメリットも存在しています。プロジェクトごとに環境が変わることや、収入面での課題、帰属意識の希薄化など、SESならではの問題点があります。
SESで働く主なデメリットとして、以下の3つが挙げられます。これらのデメリットを理解した上で、自分のキャリアプランに合った選択をすることが大切です。
- 環境変化
- 年収
- 帰属意識
各デメリットについて、以下で詳しく解説していきます。
環境変化
SESで働くデメリットとして、プロジェクトごとに環境が変わることが挙げられます。案件が変わるたびに働く場所や人間関係が一新されるため、新しい環境に適応する負担が生じます。
プロジェクトの期間は短ければ数カ月、長くても2〜3年程度であることが一般的です。せっかく職場になじんでも、契約期間の終了やプロジェクトの終了に伴い、また一から人間関係を構築する必要があります。
| 環境変化の内容 | 詳細 |
|---|---|
| 勤務地の変更 | 案件ごとに勤務地が変わるため 通勤時間や生活リズムが変化する |
| 人間関係の再構築 | 新しいプロジェクトでは 一から信頼関係を築く必要がある |
| 開発環境の違い | 使用するツールや開発手法が プロジェクトごとに異なる |
| 企業文化への適応 | クライアント企業ごとに 異なる社風やルールに従う必要がある |
環境の変化に適応することが苦手な人や、安定した職場で長期的に働きたい人にとっては、SESの働き方は大きなストレスになる可能性があります。一方で、新しい環境に柔軟になじめる人や、さまざまな経験を積みたい人には適した働き方といえます。
年収
SESで働くデメリットとして、収入面での課題も存在しています。SES企業は多重下請け構造の下流に位置することが多く、中間マージンが発生するため、エンジニアの報酬が抑えられる傾向にあります。
IT業界では、大手SIerが元請けとしてプロジェクトを受注し、下請けの二次請け、三次請けのSIerとSES企業がプロジェクトの一部や実作業を担当するケースが少なくありません。下請けが下位になればなるほど中抜きの金額がかさみ、請け負う単価が安くなるため、年収も低くなります。
| 年収に関する特徴 | 詳細 |
|---|---|
| 初任給の水準 | 未経験から入社した場合 300万円程度からのスタートが一般的 |
| 多重下請け構造の影響 | 中間マージンが発生するため エンジニアへの報酬が抑えられる |
| 昇給の機会 | スキルアップや経験を積むことで 450〜500万円程度まで目指せる |
| SIerとの差 | 同じ仕事をしていても SIerのエンジニアより収入が低い傾向 |
ただし、SESで経験を積んでスキルが向上したり、上流工程の案件を担当したりするようになれば、相応に年収は上がっていきます。特定の技術や専門分野に精通しているエンジニアや、プロジェクト管理ができるエンジニアは、市場価値に応じた高い年収が期待できます。
帰属意識
SESで働くデメリットとして、自社への帰属意識が希薄になりやすいという問題もあります。SESエンジニアは、自社で仕事をする時間よりもクライアント企業に常駐して働く時間が多くなるため、自社に対する所属感を持ちにくい傾向があります。
リモートワークの普及により物理的に常駐するケースは減少しましたが、担当するプロジェクトごとに働く場所や環境、使用するツールなどが大きく変わるため、どうしても自社に対する帰属意識が薄くなってしまいます。
| 帰属意識に関する課題 | 詳細 |
|---|---|
| 自社との接点の少なさ | クライアント先での勤務が中心のため 自社のメンバーと顔を合わせる機会が少ない |
| 社内文化への理解不足 | 自社のビジョンや方針を 実感する機会が限られている |
| 孤立感 | 同じ会社なのに顔も知らない社員がいる ということが珍しくない |
| チームの変更頻度 | プロジェクトごとにメンバーが変わるため 仲間意識を持ちにくい |
この問題に対しては、SES企業が社内のイベントやミーティングを通じてメンバー間のコミュニケーションを維持する取り組みを行っています。エンジニア自身も、社内の勉強会や交流イベントに積極的に参加することで、帰属意識を高めることができます。