派遣法改正がSES業界に与えた影響について、不安を感じているエンジニアや企業担当者は多いでしょう。2015年に労働者派遣法が改正され、特定派遣が廃止されたことで、IT業界の働き方は大きく変化しました。
派遣法改正によって、SES契約と派遣契約の違いが明確化され、偽装請負のリスクも増加しています。派遣法の3年ルールがSESに適用されるのかどうかも、多くの方が気になる点です。
この記事では、派遣法改正の具体的な内容とSES業界への影響、SES契約と派遣契約の違い、派遣法の3年ルールがSESに適用されるのかについて詳しく解説していきます。
派遣法改正の内容とSES業界への影響
派遣法改正は、IT業界におけるSES事業に大きな変化をもたらしました。2015年の改正では特定派遣が廃止され、全ての派遣事業が許可制に一本化されています。この改正によって、SES企業の事業運営方法やエンジニアの働き方にも影響が生じています。
派遣法改正がSES業界に与えた主な影響として、以下の5つがあります。
- 2015年派遣法改正の主な内容
- 特定派遣廃止の背景
- IT業界の正社員化促進
- SES活用の増加
- 偽装請負のリスク増加
それぞれの影響は、SES業界の構造や雇用形態を変える重要な要素となっています。特定派遣の廃止によって、エンジニアの雇用環境は改善された一方で、企業側には新たな対応が求められるようになりました。
各項目について、詳しく解説していきます。
2015年派遣法改正の主な内容
2015年の労働者派遣法改正では、派遣事業の運営ルールが大きく変更されました。厚生労働省が定めた改正内容により、派遣業界全体の透明性が向上しています。
2015年派遣法改正の主な内容は、以下のとおりです。
| 改正項目 | 改正内容 |
|---|---|
| 派遣事業の許可制 | 全ての労働者派遣事業が許可制に統一され、特定派遣の届出制が廃止 |
| 派遣期間の制限 | 業種問わず派遣期間の上限を原則として3年に統一 |
| 雇用安定措置 | 派遣先への直接雇用の依頼や新しい派遣先の提供などが義務化 |
| 教育訓練の義務化 | 派遣元企業による教育訓練の実施とキャリアコンサルティング窓口の整備が義務化 |
| 労働契約申込みみなし制度 | 違法な派遣受け入れがあった場合、派遣先企業から労働契約の申込みをしたものとみなす制度の設立 |
この改正によって、派遣元企業は許可取得のために資産要件や事務所要件などの厳しい基準をクリアする必要が生じました。派遣労働者の雇用安定を図るための措置が強化され、派遣事業の質の向上が促されています。
特定派遣廃止の背景
特定派遣は、派遣元企業がエンジニアと常用雇用契約を結び、派遣先企業に派遣する形態でした。派遣先企業での就業期間が終了した後も、派遣元企業との雇用関係は継続するため、エンジニアにとって安定した働き方とされていました。
しかし、実際には常用雇用のルールを守らない派遣元企業も多く存在していました。特定派遣が廃止された主な背景は、以下のとおりです。
- 常用雇用のルールを守らず有期雇用契約を繰り返す企業の存在
- 一般派遣に比べ行政処分の件数が多かった
- 特定派遣事業者と偽り一般派遣事業を行う企業の存在
- 届出制で参入障壁が低く質の低い事業所が多数存在
厚生労働省は、質の低い事業所を是正できるようにすることと、派遣労働者の働く環境を改善するため、特定派遣を廃止しました。2018年9月29日には経過措置期間が終了し、特定派遣は完全に廃止されています。
IT業界の正社員化促進
派遣法改正によって、IT業界ではエンジニアの正社員化が促進されました。派遣期間が最大3年と定められたことで、長期的に同じ職場で働くエンジニアを確保するには、直接雇用に切り替える必要が生じたためです。
IT業界で正社員化が促進された理由は、以下のとおりです。
| 理由 | 詳細 |
|---|---|
| 派遣期間の制限 | 同じ部署で3年以上派遣社員を受け入れられなくなり、継続雇用には直接雇用が必要 |
| 雇用安定措置の義務化 | 派遣元企業は派遣先への直接雇用の依頼を行う義務があり、派遣先企業も努力義務として対応 |
| システム開発の長期化 | システムの根幹部分を担当するエンジニアは長期間の勤務が必要で、直接雇用が合理的 |
派遣契約では契約満了後にトラブルが発生した場合、対応できる人材がいないリスクがあります。そのため、派遣先企業は重要なポジションのエンジニアを正社員として雇用する傾向が強まりました。
SES活用の増加
派遣法改正後、SES契約でエンジニアを確保する企業が増加しました。SESはSystem Engineering Serviceの略称で、SES企業がクライアント企業にエンジニアを派遣し、技術力や労働力を提供するサービスです。
SES活用が増加した理由は、以下のとおりです。
- 派遣事業が許可制となり運営条件を満たせない企業が増加
- SES契約は準委任契約で派遣法の3年ルールが適用されない
- 契約期間の制限がなく長期的なプロジェクトにも対応可能
- 効率的なエンジニア獲得方法として企業にメリットがある
特定派遣が廃止され派遣事業の運営が厳格化されたことで、準委任契約や請負契約でエンジニアを確保する企業が増えています。SESは今後も主流の契約形態として活用されると見込まれているようです。
偽装請負のリスク増加
派遣法改正後、SES契約における偽装請負のリスクが増加しています。SES契約では、クライアント企業がエンジニアに直接業務指示を行うことは禁止されていますが、実態として指揮命令を行ってしまうケースがあるためです。
偽装請負のリスクが増加した理由は、以下のとおりです。
| リスク要因 | 詳細 |
|---|---|
| SES契約への理解不足 | 派遣契約との違いを理解せず、クライアント企業がエンジニアに直接指示を出してしまう |
| 客先常駐の業務形態 | エンジニアがクライアント企業に常駐するため、派遣契約と同様の扱いをしてしまいがち |
| 指揮命令権の曖昧さ | 業務の遂行方法に関する指示の範囲が不明確で、違反に気づきにくい |
偽装請負と判断されると、指導や改善命令、事業廃止命令などの行政処分がなされる可能性があります。悪質な場合には刑事罰の適用対象にもなるため、SES契約の内容を正しく理解することが重要です。
派遣法改正後のSES契約と派遣契約の違い
派遣法改正後、SES契約と派遣契約の違いを正しく理解することが重要になっています。どちらもエンジニアがクライアント企業に常駐して働く形態ですが、契約内容や指揮命令権の所在が大きく異なります。
SES契約と派遣契約の主な違いとして、以下の3つがあります。
- 指揮命令権の所在
- 契約期間の制限
- 報酬の発生条件
これらの違いを理解していないと、偽装請負と判断されるリスクがあります。SES契約では、クライアント企業がエンジニアに直接業務指示を出すことが禁止されているため、派遣契約との違いを明確に把握しておく必要があります。
各項目について、詳しく解説していきます。
指揮命令権の所在
SES契約と派遣契約では、指揮命令権の所在が異なります。指揮命令権とは、労働者に対して業務の遂行方法や勤怠管理に関する指示を行う権限のことです。
指揮命令権の所在による違いは、以下のとおりです。
| 契約形態 | 指揮命令権の所在 | 業務指示の方法 |
|---|---|---|
| SES契約 | SES企業(契約を受注したベンダー企業) | クライアント企業からSES企業の業務責任者を介して指示 |
| 派遣契約 | 派遣先企業(クライアント企業) | 派遣先企業が派遣エンジニアに直接指示 |
SES契約では、クライアント企業がエンジニアに直接業務指示を出すことはできません。業務の遂行方法に関する指示は、全てSES企業の業務責任者を介して行う必要があります。この点を理解せずにクライアント企業が直接指示を出すと、偽装請負と判断される可能性があります。
契約期間の制限
SES契約と派遣契約では、契約期間の制限が異なります。派遣法改正によって派遣契約には3年ルールが適用されますが、SES契約は準委任契約であるため期間制限がありません。
契約期間の制限による違いは、以下のとおりです。
- 派遣契約は同じ部署で最大3年までしか働けない
- SES契約には契約期間の法的制限がない
- SES契約では数年単位の長期プロジェクトにも対応可能
- 派遣契約は3年経過後に直接雇用または部署異動が必要
派遣契約では、派遣先の同じ企業の同じ部署で3年以上働くことができません。3年を超えて継続勤務するには、派遣先企業での直接雇用に切り替えるか、別の部署に異動する必要があります。一方、SES契約では契約期間の制限がないため、プロジェクトの期間に応じて柔軟に対応できます。
報酬の発生条件
SES契約と派遣契約では、報酬の発生条件が異なります。SES契約は業務の遂行に対して報酬が発生するのに対し、派遣契約は労働力の提供に対して報酬が発生します。
報酬の発生条件による違いは、以下のとおりです。
| 契約形態 | 報酬の発生条件 | 特徴 |
|---|---|---|
| SES契約 | 業務内容や工数に基づいた報酬 | 成果物の完成義務はなく、業務を遂行することで報酬が発生 |
| 派遣契約 | 労働力の提供に対する報酬 | 派遣先企業の指揮下で労働することで報酬が発生 |
| 請負契約 | 成果物の完成に対する報酬 | 成果物を完成させるまで報酬は支払われない |
SES契約では工数に対して報酬が支払われるため、仮に10時間で終わる業務が20時間かかった場合、20時間分の報酬を支払う必要があります。当初の見積もりよりコストが増える可能性があることがSES契約のデメリットです。
派遣法改正で導入された3年ルールはSESに適用されるか
派遣法改正で導入された3年ルールがSESに適用されるのかどうかは、多くのエンジニアや企業担当者が気になる点です。結論から言うと、SES契約は準委任契約であるため、派遣法の3年ルールは適用されません。
派遣法の3年ルールとSESの関係について、以下の3つを解説します。
- 派遣法の3年ルールの概要
- SESは3年ルールの対象外
- SESで長期勤務するメリット
派遣法の3年ルールは派遣契約にのみ適用されるものであり、SES契約には適用されません。ただし、SES契約でも偽装請負と判断された場合は、派遣契約とみなされ3年ルールが適用される可能性があるため注意が必要です。
各項目について、詳しく解説していきます。
派遣法の3年ルールの概要
派遣法の3年ルールとは、派遣労働者が同じ部署で働ける期間を最大3年までと定めた制度です。この制度には、事業所単位の期間制限と個人単位の期間制限の2種類があります。
派遣法の3年ルールの概要は、以下のとおりです。
| 制限の種類 | 内容 |
|---|---|
| 事業所単位の期間制限 | 同じ事業所の同一部署で派遣社員を受け入れられる期間が原則3年まで。延長手続きで3年ごとに延長可能 |
| 個人単位の期間制限 | 派遣労働者一人ひとりに対し、同一部署での勤務が3年まで。延長は認められない |
事業所単位の期間制限は、派遣先企業の労働組合や労働者の過半数を代表する者の意見聴取を行うことで延長できます。しかし、個人単位の期間制限は延長が認められないため、同じ派遣社員が同じ部署で3年以上働くことはできません。
3年ルールには適用外となるケースもあり、60歳以上の場合や期限のあるプロジェクトに従事する場合などは対象外です。派遣元企業に無期雇用されている場合も、期間制限の対象外となります。
SESは3年ルールの対象外
SESは準委任契約に基づく業務委託であるため、労働者派遣法の3年ルールは適用されません。SESでは契約期間は案件によって異なり、法律による期間制限はありません。
SESが3年ルールの対象外である理由は、以下のとおりです。
- SES契約は準委任契約で労働者派遣ではない
- 指揮命令権がSES企業にあり派遣契約とは異なる
- 業務の遂行に対して報酬が発生する契約形態
- 労働者派遣法ではなく民法が適用される
ただし、SES契約であっても実態が派遣契約と同じ場合は、偽装請負と判断される可能性があります。偽装請負と判断されると、労働者派遣法が適用され3年ルールの対象となるため、SES契約の内容を正しく理解し遵守することが重要です。
SESで長期勤務するメリット
SESでは契約期間の制限がないため、同じクライアント企業で長期的に働くことができます。長期勤務によって、スキルを深めたり人脈を構築したりするメリットがあります。
SESで長期勤務するメリットは、以下のとおりです。
| メリット | 詳細 |
|---|---|
| 人脈形成のしやすさ | 同一の常駐先で長期的に働くことで関係者との接点が増え、人脈を構築しやすい |
| スキルの向上 | 同じプロジェクトに長期的に関わることで、特定の技術や業務知識を深められる |
| 残業の少なさ | SESは準委任契約で定められた時間内で働くため残業が少なく、ワークライフバランスを保ちやすい |
| 収入の安定性 | 長期的な契約によって収入が安定し、キャリアプランを立てやすい |
SESで長期勤務する際は、クライアント企業から直接指示を受けないよう注意が必要です。業務の遂行方法に関する指示は、必ずSES企業の業務責任者を介して受けることで、偽装請負のリスクを回避できます。