SES契約における勤怠管理が違法になる具体的なケース
SES契約では、エンジニアの勤怠管理を行う権限は雇用主であるSES企業側にあります。発注者であるクライアント企業が勤怠管理に関与すると、偽装請負として労働者派遣法違反になります。
SES契約で発注者が行うと違法になる勤怠管理として、以下の4つのケースがあります。
- 発注者が遅刻・早退・欠勤を承認または拒否する
- 発注者が有給取得を管理する
- 発注者が残業や休日出勤を指示する
- 発注者が出勤日の移動や変更を要請する
これらの行為は全て指揮命令権の行使にあたるため、SES企業を通さずに発注者が直接行った場合は違法となります。以下では、それぞれのケースについて詳しく解説していきます。
発注者が遅刻・早退・欠勤を承認または拒否する
SES契約において、エンジニアの遅刻・早退・欠勤に対する承認や拒否を発注者が行うことは違法です。これらの判断は、エンジニアを雇用しているSES企業の管理者が行う必要があります。
違法となる具体例は以下のとおりです。
- エンジニアが体調不良で欠勤を申し出た際に、発注者の担当者が直接承認または拒否する
- 遅刻の連絡を発注者に直接行い、発注者が了承する
- 早退する際に発注者の許可を求める
- 欠勤した翌日に発注者から叱責される
正しい運用では、エンジニアはSES企業の管理者に連絡し、管理者から発注者へ状況を報告する流れになります。発注者が直接これらの判断を下すと、実質的に雇用関係があるとみなされ偽装請負に該当するため注意が必要です。
発注者が有給取得を管理する
有給休暇の取得に関する承認や拒否を発注者が行うことも、SES契約では違法となります。有給休暇は労働者の権利であり、その管理は雇用主であるSES企業が行うべきものです。
違法となる具体例は以下のとおりです。
- エンジニアが有給申請を発注者に提出し、発注者が承認または拒否する
- 発注者の繁忙期を理由に、発注者が有給取得を断る
- 有給取得の際に発注者へ直接理由を説明する必要がある
- 発注者が有給取得日数を把握している
適切な運用では、エンジニアはSES企業に有給申請を行い、SES企業が承認した上で発注者へ報告します。発注者は報告を受けるのみで、承認や拒否の権限を持ちません。
発注者が残業や休日出勤を指示する
SES契約では、残業や休日出勤の指示を発注者が直接行うことは許されていません。これらの指示は、指揮命令権を持つSES企業の管理者のみが行えます。
違法となる具体例は以下のとおりです。
- 発注者の担当者がエンジニアに直接残業を依頼する
- 休日出勤の必要性を発注者が判断し、エンジニアに指示を出す
- 発注者がエンジニアの労働時間を管理し、残業時間を決定する
- 納期が迫っているという理由で、発注者が直接エンジニアに休日出勤を求める
正しい流れでは、発注者はSES企業の管理者に対して追加作業の必要性を伝え、管理者がエンジニアに残業や休日出勤を指示します。発注者がエンジニアに直接指示を出すと、派遣契約と同様の指揮命令関係が成立してしまいます。
発注者が出勤日の移動や変更を要請する
出勤日の移動や変更の要請を発注者が直接行うことも、SES契約では違法とされています。勤務日程の変更は、エンジニアの労働条件に関わるため、雇用主であるSES企業が管理すべき事項です。
違法となる具体例は以下のとおりです。
- 発注者が今週の出勤日を来週に振り替えるよう直接依頼する
- 発注者の都合で、エンジニアの出勤日を変更する
- 発注者がエンジニアの勤務スケジュールを直接管理する
- 祝日の振替出勤を発注者が決定する
適切な運用では、発注者からの要望はSES企業の管理者を通じて伝えられ、管理者がエンジニアと調整を行います。発注者が直接エンジニアの勤務スケジュールをコントロールすると、実質的な雇用関係があるとみなされます。
SES契約における勤怠管理で偽装請負と判断される基準
SES契約が適法かどうかは、厚生労働省の告示やガイドラインで定められた基準によって判断されます。契約書上は適法であっても、実態として基準を満たしていない場合は偽装請負とみなされます。
SES契約で偽装請負と判断される基準として、以下の3つがあります。
- 指揮命令権の所在が曖昧になっている
- 業務遂行方法に関する指示を発注者が行っている
- 勤務時間や勤務場所の管理を発注者が行っている
これらの基準は、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示37号)に基づいています。以下では、各基準について詳しく解説していきます。
指揮命令権の所在が曖昧になっている
SES契約では、指揮命令権はSES企業側にあることが明確でなければなりません。契約書に記載があっても、実態として発注者がエンジニアに直接指示を出している場合は偽装請負となります。
偽装請負と判断される状況は以下のとおりです。
- 発注者の担当者がエンジニアに業務内容を直接指示している
- SES企業の管理者が現場におらず、発注者のみがエンジニアを管理している
- エンジニアが発注者の指示に従わないと業務が進まない状態になっている
- 発注者がエンジニアの業務評価を直接行っている
適法な運用では、SES企業の管理者が現場に常駐するか、遠隔であっても定期的にエンジニアとコミュニケーションを取り、業務指示や評価を行います。発注者はSES企業の管理者に対してのみ要望を伝える形をとる必要があります。
業務遂行方法に関する指示を発注者が行っている
SES契約において、業務の遂行方法に関する指示はSES企業が自ら行う必要があります。発注者が具体的な作業手順や方法を直接指示すると、偽装請負とみなされます。
偽装請負と判断される状況は以下のとおりです。
- 発注者がエンジニアに対して作業の優先順位を直接指示する
- システム開発の手法やツールの使用方法を発注者が決定する
- コードレビューや品質チェックを発注者が直接行う
- 作業の進捗状況を発注者が直接管理し、指示を出す
適法な運用では、発注者は業務の目的や成果物のイメージを伝えるに留め、具体的な実現方法はSES企業の管理者を通じてエンジニアに指示されます。発注者とエンジニアが直接やり取りする場合でも、それは情報共有のみに限定すべきです。
勤務時間や勤務場所の管理を発注者が行っている
勤務時間や勤務場所の決定および変更は、SES企業が行うべき管理事項です。発注者がこれらを管理すると、労働者派遣と同様の状態となり偽装請負と判断されます。
偽装請負と判断される状況は以下のとおりです。
| 管理項目 | 偽装請負となる行為 |
|---|---|
| 勤務時間 | 発注者が始業・終業時刻を決定する 発注者がエンジニアの労働時間を記録する 発注者がタイムカードや勤怠システムで管理する |
| 勤務場所 | 発注者がエンジニアの席を指定する 発注者が会議室や作業場所を決定する 発注者がリモートワークの可否を判断する |
| 休憩時間 | 発注者が休憩時間を指定する 発注者が昼休みのタイミングを決める |
適法な運用では、これらの管理はSES企業が行います。ただし、オフィスの入退館管理やセキュリティ上の理由で出勤状況を把握する必要がある場合は、例外的に認められることもあります。
SES契約で勤怠管理の違法行為が発覚した場合のペナルティ
SES契約における勤怠管理で違法行為が発覚した場合、労働者派遣法違反として厳しいペナルティが科されます。違反企業は行政処分や刑事罰の対象となり、社会的信用も大きく失います。
違法行為が発覚した場合のペナルティとして、以下の3つがあります。
- 1年以下の懲役または100万円以下の罰金
- 社名の公表
- 改善命令や事業廃止命令
これらのペナルティは、発注者側とSES企業側の双方に適用される可能性があります。以下では、各ペナルティについて詳しく解説していきます。
1年以下の懲役または100万円以下の罰金
労働者派遣法違反として認定された場合、最も重いペナルティとして刑事罰が科されます。偽装請負は無許可での労働者派遣にあたるため、労働者派遣法第59条に基づき罰則の対象となります。
刑事罰が科されるケースは以下のとおりです。
- 悪質な偽装請負を繰り返している場合
- 行政からの指導や改善命令に従わなかった場合
- 労働者の権利を著しく侵害している場合
- 組織的かつ計画的に違法行為を行っている場合
刑事罰は企業の代表者や担当者個人に対しても適用されることがあり、懲役刑となれば前科がつきます。罰金刑の場合も企業の財務に影響を与えるため、違法行為を未然に防ぐ体制づくりが重要です。
社名の公表
労働者派遣法違反が確認された企業は、厚生労働省によって社名が公表される可能性があります。社名公表は企業の信用を大きく損ない、取引先や顧客からの信頼を失う原因となります。
社名公表による影響は以下のとおりです。
| 影響の範囲 | 具体的な影響内容 |
|---|---|
| 取引先との関係 | 既存の取引先から契約を打ち切られる 新規取引先の開拓が困難になる 契約条件が不利になる |
| 採用活動 | 求職者からの応募が減少する 優秀な人材の確保が難しくなる 既存社員の士気が低下する |
| 企業価値 | 株価が下落する 企業イメージが悪化する ブランド価値が毀損される |
社名公表は一度行われるとインターネット上に記録が残り続けるため、長期的な影響が避けられません。コンプライアンスを徹底し、違法行為を起こさない体制を構築することが不可欠です。
改善命令や事業廃止命令
偽装請負が発覚した場合、厚生労働大臣や都道府県労働局長から改善命令が出されます。改善命令に従わない場合や悪質なケースでは、事業廃止命令が出されることもあります。
行政処分の流れと内容は以下のとおりです。
- 是正指導:違法状態が軽微な場合、まず是正指導が行われる
- 改善命令:是正指導に従わない場合や違反が重大な場合に発令される
- 事業停止命令:改善命令に従わない場合、一定期間の事業停止を命じられる
- 事業廃止命令:最も重い処分で、事業の継続が認められなくなる
改善命令が出された時点で企業の信用は大きく低下し、事業停止命令や事業廃止命令に至れば経営そのものが成り立たなくなります。労働者派遣法の平成27年改正以降、取締りは一層強化されているため、適法な運用を心がける必要があります。