SES派遣先に転職することは可能か
SES契約で派遣先に常駐しているエンジニアが、その派遣先企業に転職することは法的に可能です。日本では憲法第22条で職業選択の自由が保障されており、民法第627条で退職の自由が明記されているため、どの企業への転職も制限されません。
ただし、SES企業との労働契約書やプロジェクト契約書に競業避止義務や転籍禁止条項が含まれている場合があるため、転職前に必ず契約内容を確認する必要があります。契約違反となると、損害賠償請求などのトラブルに発展する可能性があるため、慎重な対応が求められます。
憲法と民法が職業選択の自由を保障している
日本国憲法第22条では「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と規定されています。これはすべての国民に職業を自由に選択する権利を保障するものであり、SES派遣先への転職もこの権利に含まれます。
民法第627条では「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と定められており、退職の申し入れから2週間経過すれば雇用契約を終了できます。このように法律上は、SES派遣先への転職を禁止する根拠はありません。
SES企業の就業規則や契約条項を確認する必要がある
憲法や民法で職業選択の自由が保障されていても、SES企業との労働契約書やプロジェクト契約書には、転籍に関する制限が記載されている場合があります。競業避止義務や転籍禁止条項が明記されていると、契約違反として損害賠償を請求されるリスクがあるため注意が必要です。
転職を決断する前に、以下の書類を確認してください。
- 労働契約書
- プロジェクトの契約書や誓約書
- 就業規則
これらの書類に派遣先への転職を禁止する条項がないか確認し、不明な点があればSES企業の人事部門や弁護士に相談することで、法的リスクを回避できます。
SES派遣先に転職する3つの方法
SES派遣先に転職する方法は大きく分けて3つあります。派遣先から引き抜きされる方法、転職サイト経由で応募する方法、派遣先に直接応募する方法です。それぞれの方法には特徴があり、自分の状況に応じて最適な方法を選択することが転職成功の鍵となります。
各方法について詳しく解説していきます。
派遣先から引き抜きされる
派遣先で高い評価を得ていると、企業側から直接引き抜きの話を持ちかけられることがあります。これは現場での実績やスキルが認められた証拠であり、比較的スムーズに転職できる方法です。引き抜きの話は、飲み会や雑談のタイミングで「うちの会社に来ないか」と声をかけられる形で始まることが多いです。
引き抜きを受けるためには、派遣先での業務で成果を出し続けることが重要です。期限を守って品質の高い成果物を提供する、積極的に改善提案を行う、チームメンバーと良好なコミュニケーションを保つといった行動によって、「この人が抜けたら困る」と思われる存在になることが、引き抜きへの近道となります。
転職サイト経由で応募する
派遣先企業が転職サイトで求人を掲載している場合、そのサイト経由で応募する方法があります。SESで常駐している現場の中には人手不足の企業も多く、エンジニアを積極的に募集しているケースが少なくありません。転職サイトを利用することで、正式な採用プロセスを踏むことができ、後々のトラブルを避けやすくなります。
派遣先の求人を見つけるコツは、複数の転職サイトに登録すること、求人掲載数の多い大手転職サイトを利用すること、地域や企業規模で絞り込んで探すことです。派遣先が出している求人を見つけるのは難しい場合もあるため、根気よく探す必要があります。
派遣先に直接応募する
派遣先企業が転職サイトで求人を出していない場合、企業の公式サイトの採用ページから直接応募する方法があります。派遣先の中には求人を公開していない企業も一定数存在するため、どれだけ転職サイトで探しても見つからないことがあります。
直接応募する際は、企業の公式サイトの採用ページから応募するか、派遣先の社員に採用の依頼をお願いする方法があります。公式サイトの採用ページから応募するのが最も無難でトラブルになりにくい方法です。派遣先の社員に依頼する場合は、信頼関係を築いた上で、適切なタイミングを見計らって相談するようにしてください。
SES派遣先に転職する際の注意点
SES派遣先への転職は法的に可能ですが、実際に転職を進める際にはいくつかの注意点があります。SES企業や派遣先企業とのトラブルを避け、円滑に転職を進めるためには、慎重な対応が求められます。
転職時に意識すべき注意点について解説していきます。
契約条項を事前に確認する
SES派遣先への転職で最も重要なのは、SES企業との契約条項を事前に確認することです。労働契約書やプロジェクト契約書に競業避止義務や転籍禁止条項が記載されている場合、それに違反すると損害賠償を請求されるリスクがあります。
| 確認すべき契約条項 | 内容 |
|---|---|
| 競業避止義務 | 派遣先への直接転職を禁止する条項 違反すると契約違反としてトラブルに発展 |
| 違約金条項 | 契約違反時に違約金を請求される可能性 法的な有効性は限定的だが実務上トラブルになりやすい |
| 副業・兼業制限 | 在籍中の転職活動や他社との交渉を制限 就業規則で明記されている場合がある |
これらの条項に抵触しないよう、転職を決断する前に必ず契約書を読み返し、不明な点があれば弁護士や労働相談窓口に相談することをおすすめします。法的リスクを事前に把握することで、安心して転職活動を進められます。
SES企業には派遣先への転職を伝えない
SES派遣先への転職は法律上問題ありませんが、道徳的にはタブー視されている側面があります。SES企業に派遣先への転職を伝えると、同僚や上司との関係が悪化したり、企業間のトラブルに発展したりする可能性があるため、できるだけ伝えないことが賢明です。
退職理由を伝える際は、以下のような当たり障りのない理由を用意しておくと良いでしょう。
- 実家の家業を継ぐことになった
- 引っ越しに伴い通勤が難しくなった
- 年収が低く家族を養うのが難しい
- 自分のスキルを高められる環境に転職したい
派遣先への転職が後日判明したとしても、その時点で事実を伝えれば問題ありません。憲法で職業選択の自由が保障されているため、法的には何ら問題はないです。
失敗に備えて他の転職先も探す
SES派遣先への転職は、引き抜きの話があったとしても面接で不採用になる可能性があります。転職が100%成功するわけではないため、派遣先以外の企業にも応募し、複数の選択肢を持っておくことが重要です。
SES企業を退職した後に派遣先への転職が失敗した場合、収入が途絶えて生活に困窮するリスクがあります。このような事態を避けるため、自社開発企業や社内SEなど、派遣先以外の転職先も並行して探しておきましょう。複数の企業から内定を得ておくことで、万が一派遣先への転職が失敗しても安心です。
SES派遣先から引き抜きを受けた時の対処法
SES派遣先から引き抜きの話を受けた場合、適切な対応をすることで転職を成功させられます。引き抜きは派遣先があなたのスキルや人柄を高く評価している証拠ですが、焦って決断すると後悔する可能性もあるため、冷静に対処することが大切です。
引き抜きを受けた際の具体的な対処法を解説していきます。
まずは結論を出さずに保留する
派遣先から引き抜きの話を受けたら、その場で即答せず、一度保留することをおすすめします。じっくり検討する時間を確保することで、焦って失敗する確率を減らせます。保留する際は「興味深いお話ありがとうございます。一度御社への転職を検討したいと存じます。1週間ほど結論を保留しても構いませんでしょうか」といった形で丁寧に伝えましょう。
保留期間の目安は1週間から1ヶ月程度が適切です。この期間中に、SES企業との労働契約書やプロジェクト契約書を確認し、派遣先への転職が契約上問題ないかチェックしてください。また、派遣先企業の労働条件や企業文化についても改めて調査し、本当に転職すべきかを慎重に判断することが重要です。
契約書を確認して転籍の可否をチェックする
引き抜きの話を保留したら、SES企業との労働契約書やプロジェクト契約書を確認し、派遣先への転職が契約上禁止されていないかチェックしましょう。競業避止義務や転籍禁止条項が記載されている場合、それに違反すると損害賠償を請求されるリスクがあります。
契約書を確認する際は、以下の点に注意してください。
- 競業避止義務の有無と期間
- 転籍禁止条項の有無
- 違約金条項の有無と金額
- 退職時の手続きや通知期間
契約書の内容が不明確な場合や、法的な判断が難しい場合は、弁護士や労働相談窓口に相談することをおすすめします。事前に契約内容を把握しておくことで、損害賠償などのトラブルを避けられます。
派遣先と転職の流れを打ち合わせする
契約書を確認して転籍が禁止されていないことが分かったら、引き抜きの話をくれた派遣先の社員と相談し、転職までの流れを打ち合わせしてください。応募方法、面接や筆記試験の有無、転職までの期間、転職後の年収やポジションなど、具体的な条件を擦り合わせることで、入社後のミスマッチを防げます。
| 確認事項 | 詳細 |
|---|---|
| 応募方法 | 転職サイト経由か直接応募か 推薦状の有無 |
| 選考プロセス | 面接回数や筆記試験の有無 選考にかかる期間 |
| 労働条件 | 年収や賞与 ポジションや役職 勤務時間や休日 |
| 入社時期 | SES企業の退職手続きを考慮した 現実的な入社日 |
派遣先の社員としっかり話を合わせておくと、転職がスムーズに進みます。不明な点や不安な点があれば、遠慮せず質問して解消しておきましょう。