SES契約における中抜きの割合はどれくらいか
SES契約では、クライアント企業が支払う報酬のうち、一定の割合がSES企業に中抜きされます。この中抜きの割合を「マージン率」と呼び、エンジニアに還元される割合を「還元率」と呼びます。
SES契約における中抜きの実態を理解するには、以下の3つのポイントを把握することが重要です。それぞれのパターンによって、エンジニアが受け取れる給料は大きく変わります。
- マージン率の平均は35%から40%程度
- 還元率の相場は50%から60%程度
- 高還元SES企業のマージン率は20%から30%程度
以下では、それぞれの中抜き割合について詳しく解説していきます。
マージン率の平均は35%から40%程度
SES企業におけるマージン率の平均は、35%から40%程度とされています。マージン率とは、クライアント企業が支払う報酬のうち、SES企業が取り分として受け取る割合のことです。
厚生労働省が発行している令和元年度労働者派遣事業報告書の集計結果によると、情報処理や通信技術者のマージン率は平均37.7%となっています。仮にクライアント企業が月額100万円を支払っている場合、そのうち約37.7万円がSES企業の取り分となり、残りの約62.3万円がエンジニアへの給料として還元される計算です。
ただし、マージン率は企業によって大きく異なります。20%程度の低マージン企業もあれば、60%を超える高マージン企業も存在しており、所属する企業によって給料が大きく変わる要因となっています。
還元率の相場は50%から60%程度
SES契約における還元率の相場は、50%から60%程度が一般的です。還元率とは、クライアント企業が支払う報酬のうち、エンジニアの給料として還元される割合のことで、マージン率と表裏一体の関係にあります。
具体的な給料の計算例を以下に示します。マージン率と還元率の関係が理解しやすくなるでしょう。
| 月々の給料 | 契約単価 | マージン | 還元率 |
|---|---|---|---|
| 25万円 | 40万円 | 15万円 | 62% |
| 30万円 | 50万円 | 20万円 | 60% |
| 38万円 | 60万円 | 22万円 | 63% |
| 45万円 | 70万円 | 25万円 | 64% |
上記の表から分かるように、契約単価が高くなるほどマージンの金額も大きくなりますが、還元率は60%前後で安定しています。自分の給料が適正かどうかを判断する際は、契約単価とマージン率の両方を確認することが重要です。
高還元SES企業のマージン率は20%から30%程度
高還元SES企業と呼ばれる企業では、マージン率が20%から30%程度に抑えられています。高還元SES企業とは、エンジニアへの還元率を70%以上に設定している企業のことで、通常のSES企業よりも給料が高くなる傾向があります。
高還元を実現している企業の特徴として、営業担当者を置かずにコストを削減する、直接契約によって中間業者を排除する、オフィスの固定費を最小限に抑えるなどの工夫が挙げられます。こうした企業では還元率75%や80%を明示しているケースも珍しくなく、業界でもトップクラスの待遇を提供しています。
ただし、高還元SES企業ではエンジニア自身に高いスキルが求められることが多く、営業活動を自分で行う必要がある場合もあります。給料が高い反面、自己管理能力や営業力も必要とされる点には注意が必要です。
SES企業のマージンに含まれる経費の内訳
SES企業が受け取るマージンは、単純な利益ではなく、さまざまな経費に充てられています。マージンがどのように使われているのかを理解することで、中抜きの実態をより正確に把握できます。
マージンに含まれる主な経費は以下の通りです。これらの経費を差し引いた残りが、企業の営業利益となります。
- 社会保険料の会社負担分
- 営業や管理部門の人件費
- オフィス維持費や福利厚生費
各経費について、詳しく解説していきます。
社会保険料の会社負担分
SES企業が負担する経費の中で最も大きな割合を占めるのが、社会保険料の会社負担分です。社会保険料とは、厚生年金や健康保険、雇用保険、労災保険などの法定福利費のことで、これらの費用の約半分を企業が負担しています。
具体的には、エンジニアの給料に対して15%程度の社会保険料を企業が負担しており、この金額はマージンから支払われます。仮に月給40万円のエンジニアであれば、企業は約6万円の社会保険料を毎月負担している計算です。
社会保険料は法律で定められた義務であり、企業がエンジニアを正社員として雇用する限り必ず発生する費用となります。そのため、マージン率が高い企業でも、この部分は削減できない固定費として計上されています。
営業や管理部門の人件費
SES企業のマージンには、営業担当者や管理部門スタッフの人件費も含まれています。営業担当者は案件を獲得する役割を担い、管理部門は人事や経理、総務などの業務を担当しており、これらの人件費もエンジニアの稼ぎから間接的に支払われています。
営業担当者がいることによって、エンジニアは自分で案件を探す手間が省け、開発業務に集中できる環境が整います。また、契約書の作成や給与計算、税務処理などの事務作業も管理部門が代行してくれるため、エンジニアの負担が軽減されています。
高還元SES企業では営業担当者を置かないことでコストを削減していますが、その分エンジニア自身が営業活動を行う必要があります。マージン率が低い企業でも、こうしたサポート体制が手薄になる可能性がある点には注意が必要です。
オフィス維持費や福利厚生費
SES企業のマージンには、オフィスの賃料や光熱費、通信費などの維持費も含まれています。オフィス維持費とは、会社の事務所を運営するために必要な固定費のことで、パソコンや機器の購入費用もこれに含まれます。
さらに、福利厚生費もマージンから支払われています。福利厚生費には、通勤交通費や住宅手当、家族手当といった各種手当のほか、健康診断やレクリエーション補助、資格取得支援などの費用が含まれます。これらの福利厚生によって、エンジニアが安心して働ける環境が整備されています。
マージン率が極端に低い企業では、こうしたオフィス環境や福利厚生が不十分になる可能性があります。給料だけでなく、働く環境の質も含めて総合的に判断することが重要です。
SES契約の中抜き割合が給料に与える影響
SES契約における中抜き割合は、エンジニアの給料に直接的な影響を与えます。同じ契約単価でも、マージン率が異なれば手取り額は大きく変わるため、自分がどれくらい中抜きされているのかを把握することが重要です。
中抜き割合が給料に与える影響を理解するには、以下の3つのケースを比較することが効果的です。マージン率の違いによって、年収ベースでどれだけの差が生まれるのかを確認していきます。
- マージン率40%の場合の給料例
- マージン率25%の場合の給料例
- 年収ベースでの違い
各ケースについて、具体的な数値を示しながら解説していきます。
マージン率40%の場合の給料例
マージン率40%は、一般的なSES企業で採用されている標準的な割合です。この場合、クライアント企業が支払う報酬の60%がエンジニアの給料として還元されることになります。
具体的な給料の計算例を以下に示します。契約単価ごとに、マージン額とエンジニアへの報酬がどのように変わるのかが分かります。
| 契約単価 | マージン額(40%) | エンジニアへの報酬 |
|---|---|---|
| 50万円 | 20万円 | 30万円 |
| 60万円 | 24万円 | 36万円 |
| 80万円 | 32万円 | 48万円 |
| 100万円 | 40万円 | 60万円 |
上記の表から分かるように、契約単価が80万円の場合、マージン率40%では月給48万円となります。年収ベースでは576万円となり、マージンとして年間384万円がSES企業に支払われる計算です。
マージン率25%の場合の給料例
マージン率25%は、高還元SES企業に分類される低マージンの企業で採用されている割合です。この場合、クライアント企業が支払う報酬の75%がエンジニアの給料として還元されます。
マージン率40%の企業と比較すると、同じ契約単価でも手取り額が大きく増えることが分かります。
| 契約単価 | マージン額(25%) | エンジニアへの報酬 |
|---|---|---|
| 50万円 | 12.5万円 | 37.5万円 |
| 60万円 | 15万円 | 45万円 |
| 80万円 | 20万円 | 60万円 |
| 100万円 | 25万円 | 75万円 |
契約単価80万円の場合、マージン率25%では月給60万円となり、マージン率40%の企業と比べて月12万円も多く受け取れます。この差は決して小さくなく、年収ベースではさらに大きな違いとなって表れます。
年収ベースでの違い
マージン率の違いは、月給だけでなく年収ベースでも大きな影響を与えます。契約単価80万円で働くエンジニアの場合、マージン率によって年収がどれだけ変わるのかを比較してみましょう。
| マージン率 | 月給 | 年収 | 年間マージン額 |
|---|---|---|---|
| 25%(高還元) | 60万円 | 720万円 | 240万円 |
| 40%(一般的) | 48万円 | 576万円 | 384万円 |
| 55%(高マージン) | 36万円 | 432万円 | 528万円 |
上記の比較から分かるように、低マージン企業と高マージン企業では年収に288万円もの差が生じます。同じスキルで同じ契約単価の案件に参画していても、所属する企業のマージン率によってこれだけの差が出るのです。
自分の給料が適正かどうかを判断するには、契約単価とマージン率の両方を確認し、還元率が50%を下回っていないかをチェックすることが重要です。もし還元率が極端に低い場合は、高還元SES企業への転職を検討する価値があるでしょう。