SES企業で働くエンジニアの中には、会社から経歴詐称を強要され、それがバレたらどうなるのか不安を抱えている方も多いでしょう。実際に経歴詐称が発覚した場合、損害賠償請求や契約解除といった深刻なリスクが待っています。
過去には、経歴詐称を強要したSES企業が訴訟で敗訴し、エンジニアに賠償金を支払うよう命じられた判例も存在します。経歴詐称は一時的に案件が決まりやすくなるように見えても、バレたときの代償は非常に大きく、エンジニア自身のキャリアにも深刻な影響を及ぼします。
この記事では、SES企業で経歴詐称がバレたときのリスクや実際の訴訟事例、企業が経歴詐称を強要する理由、そして経歴詐称を避けるための対処法について詳しく解説していきます。
SES企業で経歴詐称がバレたときのリスク
SES企業で経歴詐称がバレた場合、エンジニアには深刻なリスクが待ち受けています。一時的に案件が決まったとしても、発覚した際の代償は計り知れません。
経歴詐称がバレたときに直面するリスクとして、以下の3つがあります。
- 損害賠償を請求されるリスク
- 契約を解除されるリスク
- 精神的苦痛を受けるリスク
これらのリスクは、エンジニアのキャリアに長期的な悪影響を及ぼし、IT業界での信用を失う原因となります。それぞれのリスクには異なる特徴があり、状況によって深刻度が変わってきます。
各リスクについて、詳しく解説していきます。
損害賠償を請求されるリスク
経歴詐称がバレた場合、最も深刻なリスクとして損害賠償請求があります。クライアント企業がプロジェクトに重大な支障や損害を被った場合、SES企業を通じてエンジニア個人にも賠償請求が及ぶ可能性があるためです。
損害賠償請求が発生する主なケースは、以下のとおりです。
- 納期遅延やシステム不具合によりクライアントに金銭的損害が発生した
- 経歴詐称の態様が悪質でクライアントを著しく欺いたと判断された
- プロジェクトが破綻し取引先企業に重大な損失を与えた
実際の裁判事例では、経歴詐称を理由に約124万円の損害賠償が認められたケースも存在します。SES企業が「エンジニアが勝手にやった」と主張した場合、エンジニア個人が全責任を負わされる危険性もあるため、経歴詐称に加担することは絶対に避けるべきです。
契約を解除されるリスク
経歴詐称が発覚した場合、クライアント企業は契約を即座に解除できます。民法第651条により、委任契約はいつでも解除できるため、経歴詐称が判明した時点で契約を打ち切られるのです。
契約解除によって生じる影響は、以下のとおりです。
- 現場から即座に引き上げられ仕事を失う
- SES企業内で待機期間となり給料が減額される
- 次の案件が決まらず長期間待機状態が続く
- 最悪の場合は懲戒解雇や自主退職を迫られる
契約解除はクライアント企業にとって当然の判断であり、虚偽の経歴で業務を任せるわけにはいかないためです。SES企業側も信用を失い、そのエンジニアを再び案件にアサインすることは困難になります。
精神的苦痛を受けるリスク
経歴詐称をして現場に入った場合、バレる前から精神的に追い詰められる状況が続きます。実力が伴わない業務を任され、周囲からの期待に応えられないプレッシャーに日々さらされるためです。
経歴詐称によって受ける精神的苦痛の例は、以下のとおりです。
- 業務ができないことを繰り返し責められる
- 質問をすると経歴詐称がバレるのではと不安になる
- 現場で公然と能力不足を指摘される
- 常に嘘をつき続けなければならないストレス
実際の訴訟事例では、経歴詐称を強要されたエンジニアが「仕事ができないと責められ精神を病んだ」と証言しています。偽りの経歴で現場に入っても、誰もフォローしてくれず孤立し、最終的には心身の健康を損なう結果となります。
SES企業の経歴詐称で訴訟になった判例
SES企業における経歴詐称は、実際に訴訟問題に発展したケースが複数存在します。裁判所が経歴詐称を詐欺行為と認定し、SES企業側に賠償を命じた判決も出ているため、決して軽視できない問題です。
代表的な訴訟事例として、以下の2つがあります。
- 東京地裁の判決事例
- 東京高裁の判決事例
これらの判例では、経歴詐称を強要したSES企業の行為が詐欺と認定され、エンジニアに対する損害賠償が命じられました。裁判所が明確に違法性を認めたことで、経歴詐称を行う企業への抑止力となっています。
各判例について、詳しく解説していきます。
東京地裁の判決事例
2024年7月19日、東京地方裁判所で経歴詐称を強要されたエンジニアが勝訴する判決が下されました。未経験からITエンジニアになれると謳いながら、高額なスクール受講料を徴収し、経歴詐称をさせて客先に派遣したSES企業の行為が詐欺と認定されたのです。
東京地裁の判決内容は、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 訴訟の概要 | エンジニア3名がSES企業とその経営者2名を訴えた |
| 訴訟の理由 | 経歴詐称を強要され詐欺行為に加担させられた |
| 判決結果 | 被告企業の行為を詐欺行為と認定 |
| 賠償額 | 総額500万円以上の支払いを命令 |
裁判所は判決文で「被告らの事業内容は、取引先に対する詐欺行為により利益を得ようとするもの」と明記しています。この判決により、経歴詐称を強要する企業の行為が法的に許されないことが明確になりました。
東京高裁の判決事例
2025年2月6日、東京高等裁判所は一審判決を支持しつつ、賠償額を増額する判決を下しました。被告企業側が控訴したものの、高裁も経歴詐称の強要を詐欺行為と認め、原告エンジニア側の訴えを全面的に認めたのです。
東京高裁の判決内容は、以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 控訴審の結果 | 一審判決を支持し被告側の控訴を棄却 |
| 賠償額 | 約769万円の支払いを命令 |
| 判決の意義 | SES詐欺に対する大きな抑止力となる |
| その後の動き | 労働組合が要注意SES詐欺企業リストを公表 |
高裁判決後、原告側弁護士は「この判決はSES詐欺に対する大きな抑止力になる」と述べています。経歴詐称を当たり前と称して新人を騙し、労働搾取を行うビジネスモデルは違法であり、賠償責任を負うリスクが高いことが司法によって示されました。
SES企業が経歴詐称を強要する理由
SES企業が重大なリスクを冒してまで経歴詐称を強要するのは、会社の利益を優先するためです。エンジニアの将来やキャリアよりも、目先の売上や契約獲得を重視する企業体質が、経歴詐称を生み出す根本原因となっています。
SES企業が経歴詐称を強要する主な理由として、以下の3つがあります。
- 契約件数を増やすため
- 契約単価を上げるため
- 待機期間を減らすため
これらの理由はいずれも企業側の都合によるものであり、エンジニアの成長や適性は一切考慮されていません。経歴詐称を強要する企業は、エンジニアを売上を作る道具としか見ていないため、早めに転職を検討すべきです。
各理由について、詳しく解説していきます。
契約件数を増やすため
SES企業は、エンジニアが契約を獲得しなければ売上が立たないビジネスモデルです。そのため、1件でも多く契約を取るために、未経験や経験の浅いエンジニアにも経歴詐称をさせて案件を獲得させようとします。
契約件数を増やすために行われる経歴詐称の手口は、以下のとおりです。
- 完全未経験でも実務経験3年と書かせる
- 研修期間を経験年数として計上させる
- 実務経験のない言語やフレームワークを経験ありと記載させる
- SES面談で何でもできると言わせる
営業力が弱いSES企業ほど、正攻法では案件を獲得できないため、経歴詐称に頼らざるを得ない状況に陥ります。待機中のエンジニアは会社にとって赤字であり、少しでも早く案件に入れるよう経歴を盛って契約件数を増やそうとするのです。
契約単価を上げるため
SES契約では、エンジニアのスキルや経験年数によって月額単価が大きく変動します。経験年数が1年違うだけで月額10万円から15万円程度も単価が変わるため、経歴を盛ることで売上を増やそうとするのです。
経験年数による月額単価の違いは、以下のとおりです。
| スキルレベル | 平均月単価 |
|---|---|
| テスター(1年) | 45万円から60万円 |
| プログラマー(3年) | 55万円から70万円 |
| システムエンジニア(5年) | 80万円から100万円 |
| プロジェクトマネージャー | 85万円から150万円 |
テスターとプログラマーでも10万円から25万円の差が生じるため、少しでも高い単価で契約したい企業は経歴詐称に手を染めます。営業担当が先に高単価の話を進めてしまい、後から辻褄を合わせるために経歴詐称を強要するケースもあります。
待機期間を減らすため
SES企業にとって、案件が決まらず待機しているエンジニアは大きな損失です。給与や社会保険料は会社が支払い続けなければならず、売上は一切発生しないためです。
待機期間を減らすために行われる経歴詐称の背景は、以下のとおりです。
- 未経験エンジニアは案件が決まりにくい
- 長期の待機期間は会社の経営を圧迫する
- 少しでも早く案件に入れるため経歴を盛る
- 営業ノルマ達成のため詐称を黙認する
特に中小規模のSES企業や多重下請け構造の企業では、経営に余裕がなく目先の利益を追求せざるを得ない状況にあります。結果として、エンジニアに経歴詐称を強要し、無理やり案件にねじ込むという悪循環が生まれているのです。
SES企業で経歴詐称を強要されたときの対処法
SES企業から経歴詐称を強要された場合、適切な対処法を知っておくことが重要です。経歴詐称に加担してしまうと、後々大きなリスクを背負うことになるため、早い段階で対策を講じる必要があります。
経歴詐称を強要されたときの対処法として、以下の3つがあります。
- 経歴詐称を断る
- 証拠を残す
- 転職活動を開始する
これらの対処法を実践することで、経歴詐称のリスクから身を守り、健全なキャリアを築くことができます。それぞれの方法には異なる目的があり、状況に応じて組み合わせて実行することが効果的です。
各対処法について、詳しく解説していきます。
経歴詐称を断る
経歴詐称を強要されたら、まず明確に断ることが最も重要です。経歴詐称は詐欺行為であり、上司や営業から指示されても従う義務は一切ありません。
経歴詐称を断る際のポイントは、以下のとおりです。
- 断ることで悪いことをしているのは企業側だと認識する
- 断固拒否しても法的に何も問題ない
- 脅されても屈しない強い意志を持つ
- 断った事実を社内外の信頼できる人に伝える
経歴詐称が当たり前の環境にいると、断ることに抵抗を感じるかもしれません。しかし、悪事の片棒を担ぐ必要はなく、むしろ不正を拒否することがあなた自身を守ることになります。断ることで解雇を示唆されるような企業は、そもそも長く勤める価値がないブラック企業です。
証拠を残す
経歴詐称を強要された場合、その事実を証明できる証拠を必ず残しておくことが重要です。後々バレたときに、自分の意志ではなく会社から強要されたことを証明できれば、責任を回避できる可能性が高まります。
証拠として残すべき内容は、以下のとおりです。
| 証拠の種類 | 内容 |
|---|---|
| 音声データ | 経歴詐称を指示された会話の録音 |
| メールやチャット | スキルシート改ざんの指示が記載されたメッセージ |
| スキルシートのコピー | 提出前の正しい経歴と改ざん後の虚偽経歴の両方 |
| 日時と状況のメモ | 誰にいつどのような指示を受けたかの記録 |
これらの証拠があれば、訴訟や裁判に発展した際も自分の無実を証明できます。スマートフォンの録音機能を使い、会話を記録しておくだけでも十分な証拠となるため、必ず実行するようにしてください。
転職活動を開始する
経歴詐称を強要するSES企業に在籍し続けることは、あなたのキャリアにとって百害あって一利なしです。そのような企業には将来性がなく、いずれ破綻するか訴訟問題に巻き込まれる可能性が高いため、早めに転職活動を開始すべきです。
転職活動を進める際のポイントは、以下のとおりです。
- 経歴詐称を強要しない優良企業を選ぶ
- 自社開発や社内SEなど安定した職種を検討する
- IT転職エージェントを活用して確実に転職する
- 短期離職でも理由を正直に説明すれば問題ない
精神的に追い込まれる前に行動を起こすことが重要です。転職エージェントに相談すれば、経歴詐称のない優良企業を紹介してもらえるだけでなく、面接対策や書類添削などのサポートも受けられます。根本的な問題を解決するには、環境を変えることが最も効果的な方法です。