SES事業と派遣の基本的な違い
SES事業と派遣は、どちらもエンジニアがクライアント企業で働く契約形態ですが、指揮命令権や契約内容に明確な違いがあります。SES事業はSystem Engineering Serviceの略で、IT業界における準委任契約を指し、派遣は労働者派遣契約によってクライアント企業の指揮命令下で働く形態です。
両者の違いを理解するために、以下の3つの観点から比較していきます。
- 指揮命令権の違い
- 契約形態の違い
- 報酬条件の違い
これらの違いを把握することによって、自分に適した働き方を選択できるでしょう。以下では、それぞれの違いについて詳しく解説していきます。
指揮命令権の違い
SES事業と派遣の最も大きな違いは、指揮命令権の所在です。指揮命令権とは、エンジニアに対して業務の指示や命令を出す権利のことで、この権利がどちらの企業にあるかによって働き方が大きく変わります。
| 契約形態 | 指揮命令権の所在 |
|---|---|
| SES事業 | SES企業(雇用元) クライアント企業は直接指示を出せない |
| 派遣 | 派遣先企業 派遣先企業が直接指示を出せる |
SES事業の場合、エンジニアはSES企業の正社員として雇用され、指揮命令権もSES企業にあります。クライアント企業がSES契約のエンジニアに対して直接業務指示を出すと、偽装請負として違法行為と判断される可能性があるため注意が必要です。派遣の場合は、派遣先企業に指揮命令権があるため、派遣先企業が直接業務の指示を出せます。
契約形態の違い
SES事業と派遣では、法的な契約形態も異なります。SES事業は準委任契約、派遣は派遣契約と呼ばれ、それぞれ異なる法律に基づいて運用されています。
| 契約形態 | 法的分類 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| SES事業 | 準委任契約 | 民法656条 |
| 派遣 | 派遣契約 | 労働者派遣法 |
準委任契約では、業務の遂行そのものに対して報酬が支払われ、成果物の完成義務はありません。派遣契約では、派遣会社と派遣先企業が労働者派遣契約を結び、派遣社員の雇用主は派遣会社ですが、実際の指揮命令は派遣先企業が行います。派遣には登録型派遣と常用型派遣の2種類があり、登録型派遣は派遣期間中のみ雇用契約が成立し、常用型派遣は派遣会社に常用雇用されている点が特徴です。
報酬条件の違い
SES事業と派遣では、報酬が決まる仕組みにも違いがあります。報酬条件の違いを理解することによって、どちらの働き方が自分に適しているかを判断できるでしょう。
| 契約形態 | 報酬の対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| SES事業 | 業務遂行・工数 | 作業時間に応じて報酬が発生 成果物の完成義務はない |
| 派遣 | 労働力・作業時間 | 作業時間に応じて報酬が発生 時給制が一般的 |
SES事業は工数に対して報酬が支払われるため、1時間かかった場合と10時間かかった場合では報酬が異なります。派遣も同様に作業時間に対して報酬が発生し、時給制で計算されることが一般的です。どちらも成果物に対する保証責任はなく、作業時間に応じて報酬が支払われる点が共通しています。
SES事業のメリット・デメリット
SES事業で働くことには、特有のメリットとデメリットがあります。雇用の安定性やスキルアップの機会など、SES事業ならではの特徴を理解することによって、自分のキャリアプランに合った選択ができるでしょう。
SES事業のメリット・デメリットについて、詳しく解説していきます。
SES事業のメリット
SES事業で働く最大のメリットは、雇用の安定性です。SES企業の正社員として雇用されるため、プロジェクトの稼働状況に関わらず毎月の給与が保障されています。
- 収入が安定している
- 多様なプロジェクトで経験を積める
- 業界内の人脈を広げやすい
- 契約期間の制限がない
派遣先企業との契約が終了しても、雇用主であるSES企業との契約は継続されるため、次の常駐先が決まるまでの間も給料が支払われます。多様なクライアント企業のプロジェクトに参画できるため、異なる技術や業務知識を習得する機会が豊富で、将来的なキャリアの選択肢を広げることができるでしょう。
SES事業のデメリット
SES事業にはデメリットも存在します。クライアント企業の正社員と比べて、重要な業務や意思決定に関与する機会が少ない点が主なデメリットです。
- 重要な業務を任されづらい
- キャリアアップの機会が限定される
- 本人の意思に反した案件へアサインされることがある
- 環境変化が頻繁で適応が必要
上流工程は派遣先企業の正社員が担当し、下流工程をSESが担当することが一般的とされているため、プロジェクトの中核部分にアクセスしづらい状況が生じることがあります。会社の方針によっては、本人が希望しない技術領域の案件にアサインされることもあり、自分のキャリアパスを描きにくい点がデメリットといえるでしょう。
人材派遣(ITエンジニア)のメリット・デメリット
派遣で働くことにも、特有のメリットとデメリットがあります。柔軟な働き方やライフワークバランスの取りやすさなど、派遣ならではの特徴を理解することによって、自分のライフスタイルに合った働き方を選択できるでしょう。
派遣のメリット・デメリットについて、詳しく解説していきます。
派遣のメリット
派遣で働く最大のメリットは、柔軟な働き方ができる点です。契約期間や勤務時間が明確に定められているため、ライフワークバランスを取りやすい特徴があります。
- ライフワークバランスを取りやすい
- 多様な職場環境でスキルを磨ける
- 案件を選べる自由度がある
- 派遣先企業から直接雇用のオファーを受ける可能性がある
さまざまな企業やプロジェクトに関わることができるため、幅広い業務経験を積むことが可能です。登録型派遣の場合は、自分のスキルや希望に合った案件を選べる余地があり、組織のルールに縛られずに働けます。派遣期間中に優れた業績を残せば、派遣先企業から正社員としての直接雇用オファーを受けることもあり、転職のステップとして活用できるでしょう。
派遣のデメリット
派遣にはデメリットも存在します。契約期間の制限があることや、収入の不安定さが主なデメリットです。
- 同一企業での就業期間が最長3年に制限される
- 派遣先企業内でのキャリアアップが見込めない
- 派遣待ちの期間は収入が途絶える可能性がある
- 非正規労働者として昇給や昇進が難しい
労働者派遣法により、派遣社員が一つの組織単位で継続して就業できる期間は最長3年と定められています。スキルが高く社風に馴染む人材であっても、3年を超えて派遣契約を続けることはできません。登録型派遣の場合、次の派遣先が決まるまでの待機期間は収入がゼロになるため、経済的な不安定さがデメリットといえるでしょう。