SESエンジニアとして働く中で、通勤時間の長い案件を提示されることがあります。片道2時間の通勤は体力的にも時間的にも大きな負担となり、プライベートの時間を圧迫するため、できれば断りたいと考える方も多いでしょう。
しかし、SESでは正社員として雇用されているケースが多く、会社から提示された案件を断ることは簡単ではありません。通勤時間を理由に断った場合、社内評価が下がるリスクや次の案件紹介の優先順位が下がる可能性もあり、慎重な対応が求められます。
この記事では、SESの案件を通勤時間を理由に断ることができるのか、断る際の適切な伝え方、断った場合のリスク、そして通勤時間以外で説得力のある断り方について詳しく解説します。
通勤時間を理由にSESの案件を断ることはできるか
SESエンジニアが案件を断ることができるかどうかは、雇用形態や経験年数、会社との関係性によって大きく異なります。通勤時間を理由に断ることは理論上可能ですが、実際には多くの制約があり、断ることで不利益を被る可能性もあるため注意が必要です。
以下では、雇用形態別の断りやすさ、通勤時間を理由にする際の難しさ、経験年数による違いについて解説します。
- 正社員雇用の場合は断りにくい
- 契約社員やフリーランスなら検討の余地あり
- 通勤時間単体では断る理由として弱い
それぞれの状況によって断りやすさは変わるため、自分の立場を客観的に把握した上で判断することが重要です。各項目について詳しく見ていきましょう。
正社員雇用の場合は断りにくい
正社員としてSES企業に雇用されている場合、会社から提示された案件を断ることは非常に難しいのが現実です。正社員は会社と雇用契約を結んでおり、会社の指示に従って業務を遂行する義務があるためです。
会社側としては、エンジニアが案件に参画していない待機期間中も給与を支払う必要があります。そのため、エンジニアを案件に参画させることで売上を確保することが会社の経営にとって重要であり、案件を断られることは会社にとって大きな損失となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 雇用形態 | 正社員 |
| 会社の立場 | 待機中も給与を支払う必要があるため、 案件に参画させることが最優先 |
| エンジニアの義務 | 会社の業務命令に従う義務がある |
| 断った場合のリスク | 社内評価の低下、次の案件紹介の優先順位低下、 給与カットや雇用形態変更の提案 |
会社によっては、案件を断る社員に対して派遣社員やフリーランスへの移行を提案することもあります。これは、正社員として雇用し続けることが会社にとって負担になるためです。正社員として安定した雇用を望むのであれば、基本的には提示された案件を受けることが前提となります。
契約社員やフリーランスなら検討の余地あり
契約社員やフリーランスとして働いている場合、正社員に比べると案件を選ぶ自由度は高くなります。これらの雇用形態では、待機期間中の給与保証がないケースが多いため、会社側としても無理に案件を押し付けるリスクが低いためです。
フリーランスの場合は特に、自分で案件を選択する権利があります。ただし、案件を断りすぎると次の案件紹介の優先順位が下がり、結果的に仕事が減ってしまう可能性もあるため、バランスを考えることが重要です。
| 雇用形態 | 断りやすさ | 注意点 |
|---|---|---|
| 正社員 | 断りにくい | 会社の業務命令に従う義務があり、 断ることで不利益を被るリスクが高い |
| 契約社員 | やや断りやすい | 待機期間の給与保証がない場合もあり、 断りすぎると契約更新に影響する可能性 |
| フリーランス | 比較的断りやすい | 案件を選ぶ自由はあるが、 断りすぎると紹介優先順位が下がる |
契約社員の場合も、契約内容によっては案件を選べる余地がありますが、契約更新時に不利になる可能性があるため注意が必要です。フリーランスであっても、営業担当者との信頼関係を維持するためには、断る回数を最小限にとどめることが求められます。
通勤時間単体では断る理由として弱い
通勤時間の長さを理由に案件を断ることは、会社側から見ると正当性が低いと判断されやすい傾向があります。なぜなら、通勤時間は個人の居住地に起因する問題であり、エンジニアとしての成長やキャリア形成とは直接関係しないと考えられるためです。
会社の営業担当者は、クライアントとの関係構築に多大な労力を費やして案件を獲得しています。そのため、通勤時間という個人的な理由で案件を断られることに対して、良い印象を持たないケースが多いのが実情です。
- 通勤時間は個人の都合と見なされやすい
- キャリア形成に直結しない理由は説得力が弱い
- 営業担当者が苦労して獲得した案件を断ることへの抵抗感
- 他のエンジニアは通勤時間で断らないという比較
特に業界経験が3年未満の場合、通勤時間を理由に案件を断ることは難しいでしょう。会社側は、経験の浅いエンジニアに対して「まずは経験を積むことが重要」という姿勢を取ることが多く、通勤時間という理由だけでは納得してもらえない可能性が高いためです。
SESの案件を断る際の適切な伝え方
通勤時間を理由に案件を断る場合、伝え方次第でその後の会社との関係性が大きく変わります。単に「通勤時間が長いので嫌です」と伝えるだけでは、わがままな社員と見なされ、社内評価が下がるリスクがあります。
断る際には、会社側が納得しやすい理由を組み合わせ、丁寧な言葉遣いで伝えることが重要です。以下では、通勤時間を理由に断る際の効果的な伝え方について解説します。
- キャリアの成長機会と組み合わせて説明する
- 具体的な通勤負担を数値で示す
- 代替案を提示する
これらの方法を組み合わせることで、会社側に対して誠実な姿勢を示しつつ、自分の意向を伝えることができます。それでは各項目について、具体的に見ていきましょう。
キャリアの成長機会と組み合わせて説明する
通勤時間を理由に断る際、最も効果的なのは「キャリアの成長機会」という視点を組み合わせることです。会社側は、エンジニアのスキルアップやキャリア形成を妨げる案件については、ある程度配慮してくれる可能性があります。
例えば、「通勤時間が片道2時間かかるため、帰宅後に自己学習の時間を確保することが難しくなります。現在、○○のスキルを習得中であり、このスキルを活かせる案件に参画したいと考えています」といった伝え方が効果的です。
| 伝え方 | 効果 |
|---|---|
| 通勤時間が長いので断りたい | 個人的な都合と見なされやすく、 わがままな印象を与える |
| 通勤時間が長く、 自己学習の時間が確保できないため、 ○○のスキルを活かせる案件を希望 |
キャリア成長を重視する姿勢が伝わり、 会社側も配慮しやすい |
この伝え方のポイントは、通勤時間の長さが自分のキャリア形成にどのような悪影響を与えるのかを明確に示すことです。会社側は、エンジニアのスキルアップを阻害する要因については理解を示しやすいため、単なる通勤時間の問題よりも説得力が増します。
具体的な通勤負担を数値で示す
通勤時間の長さを伝える際は、具体的な数値を示すことで説得力が高まります。抽象的に「遠い」と伝えるよりも、「片道2時間、往復4時間」といった具体的な時間を示すことで、会社側も負担の大きさを理解しやすくなります。
さらに、通勤時間が生活にどのような影響を与えるかを具体的に説明することも効果的です。例えば、「往復4時間の通勤により、睡眠時間が5時間しか確保できず、業務のパフォーマンスにも影響が出る可能性があります」といった伝え方です。
- 片道の通勤時間と往復の合計時間を明示する
- 1ヶ月あたりの通勤時間を計算して提示する
- 睡眠時間や自己学習時間への具体的な影響を説明する
- 体力的な負担や健康面への懸念を伝える
例えば、「片道2時間の通勤では、月20日勤務として往復で80時間を通勤に費やすことになります。この時間を自己学習に充てることができれば、より高いスキルを身につけて会社に貢献できると考えています」といった伝え方をすることで、会社側にとってもメリットがある提案として受け取ってもらえる可能性が高まります。
代替案を提示する
案件を断る際に、単に断るだけではなく代替案を提示することで、会社側との関係を良好に保つことができます。代替案とは、「通勤時間1時間以内の案件であれば参画可能です」「リモートワークが可能な案件であれば検討します」といった具体的な条件を示すことです。
営業担当者にとって、エンジニアの希望条件が明確であれば、次の案件を探しやすくなります。また、代替案を提示することで、「わがままで断っている」のではなく「条件が合えば前向きに検討する」という姿勢を示すことができます。
| 代替案の例 | 効果 |
|---|---|
| 通勤時間1時間以内の案件 | 具体的な条件を示すことで、 営業が次の案件を探しやすくなる |
| リモートワーク可能な案件 | 通勤負担を軽減しつつ、 案件参画の意思があることを示せる |
| 現在の居住地から近い地域の案件 | 地理的な制約を明確にすることで、 営業の案件選定の手間を減らせる |
また、「次回は○○のスキルを活かせる案件に参画したいと考えています。そのような案件がありましたら、ぜひお力になりたいです」といった前向きな姿勢を示すことも重要です。これにより、営業担当者との信頼関係を維持しつつ、自分の希望を伝えることができます。
通勤時間以外でSESの案件を断る際に使える内容
通勤時間を理由に案件を断ることは難しいため、他の説得力のある理由と組み合わせることで、会社側の理解を得やすくなります。会社が納得しやすい理由とは、エンジニアとしての成長やキャリア形成に直接関わる内容です。
以下では、通勤時間以外で会社側が受け入れやすい断り方について解説します。これらの理由を通勤時間の問題と組み合わせることで、より説得力のある交渉ができます。
- スキルアップの機会がない
- 仕事内容が大きく異なる
- 労働条件が事前説明と乖離している
これらの理由は、エンジニアのキャリア形成に直結するため、会社側も一定の理解を示してくれる可能性が高いです。各項目について、詳しく見ていきましょう。
スキルアップの機会がない
提示された案件が自分のキャリアプランに合わず、スキルアップの機会がないと判断される場合は、断る理由として会社側も理解を示しやすいです。例えば、開発経験を積みたいのにテスター業務ばかりの案件や、習得したいプログラミング言語とは全く異なる言語を使う案件などが該当します。
エンジニアとしてのキャリアを考えた際、スキルが停滞してしまう案件に長期間参画することは、将来的な市場価値の低下につながります。会社側も、エンジニアの成長を阻害することは長期的に見てマイナスであると理解しているため、この理由は比較的受け入れられやすいです。
| 案件の内容 | スキルアップへの影響 |
|---|---|
| テスター業務のみ | コーディングスキルが身につかず、 開発経験を積めない |
| 運用・保守業務のみ | 新しい技術に触れる機会が少なく、 スキルが停滞する |
| 希望と異なる言語の案件 | 目指すキャリアパスから外れ、 市場価値が上がりにくい |
この理由で断る際は、「現在○○のスキルを習得中であり、将来的には○○エンジニアを目指しています。そのため、○○に関わる案件に参画したいと考えています」といった具体的なキャリアプランを示すことが重要です。これにより、単なるわがままではなく、キャリアを真剣に考えている姿勢を示すことができます。
仕事内容が大きく異なる
これまでの業務経験と全く異なるジャンルの案件を提示された場合は、断る理由として正当性が認められやすいです。エンジニアには大きく分けて、アプリケーション開発、ソフトウェア開発、サーバー構築、セキュリティ、運用、テストなど複数の種類があり、種類が変わると必要なスキルセットも大きく異なります。
例えば、これまでアプリケーション開発を中心に経験を積んできたエンジニアが、突然インフラ構築の案件を提示された場合、そのスキルギャップが大きすぎて業務に支障をきたす可能性があります。このような場合は、会社側も無理に参画させることのリスクを理解しやすいです。
- アプリケーション開発からインフラ構築への転換
- フロントエンドからバックエンドへの大幅な変更
- 開発業務からテスト・運用への変更
- 使用経験のない言語やフレームワークの案件
ただし、同じジャンルの中で「この案件は好みではない」という理由で断ることは、わがままと見なされる可能性が高いです。あくまで、仕事内容が大きく異なり、自分のスキルセットでは対応が難しい場合に限り、この理由が有効になります。
労働条件が事前説明と乖離している
面談時や案件提示時に説明された労働条件と、実際の労働条件が大きく異なる場合は、断る理由として正当性が高いです。例えば、リモートワークと聞いていたのに週5日出社が必要、残業は月20時間程度と聞いていたのに実際は月60時間以上といったケースです。
労働条件の乖離は、エンジニアの生活やキャリアに直接影響するため、会社側も一定の理解を示さざるを得ません。特に、通勤時間に関しても、「面談時に通勤1時間以内と聞いていたのに、実際は2時間かかる」といった乖離があれば、断る理由として説得力が増します。
| 事前説明 | 実際の状況 | 影響 |
|---|---|---|
| リモートワーク可 | 週5日出社が必要 | 通勤負担が想定外に増加し、 生活スタイルが大きく変わる |
| 残業月20時間程度 | 実際は月60時間以上 | プライベート時間が大幅に減少し、 自己学習の時間も確保できない |
| 通勤時間1時間以内 | 実際は片道2時間 | 体力的負担が大きく、 業務パフォーマンスに影響 |
この理由で断る際は、「面談時には○○と説明されていましたが、実際には○○であることが判明しました。当初の説明と大きく異なるため、参画を再検討させていただきたいです」といった丁寧な伝え方が効果的です。客観的な事実を示すことで、会社側も納得しやすくなります。
通勤時間を理由にSESの案件を断った場合のリスク
SESの案件を通勤時間を理由に断ることは、短期的には通勤負担を回避できるメリットがありますが、長期的には様々なリスクを伴います。特に正社員として雇用されている場合、案件を断ることで会社との信頼関係が損なわれる可能性があります。
以下では、案件を断った場合に想定されるリスクについて具体的に解説します。これらのリスクを理解した上で、断るべきかどうかを慎重に判断することが重要です。
- 社内評価が低下する
- 次の案件紹介の優先順位が下がる
- 給与カットの可能性がある
これらのリスクは、断る回数や断り方によって影響の大きさが変わります。各項目について、詳しく見ていきましょう。
社内評価が低下する
案件を断ることは、会社側から見ると「指示に従わない社員」という印象を与える可能性があります。SES企業では、エンジニアを案件に参画させることで利益を得るビジネスモデルであるため、案件を断る行為は会社の利益を損なうと見なされるためです。
社内評価が低下すると、昇給や昇格、ボーナスの査定に悪影響が出る可能性があります。特に、案件を断らない他のエンジニアと比較されることで、相対的に評価が下がるリスクもあります。
- 会社の指示に従わない社員という印象
- 昇給や昇格の査定に悪影響
- ボーナスの減額
- 案件を断らない他のエンジニアとの比較
ただし、社内評価が低下するといっても、すぐに解雇されるわけではありません。多くのSES企業では、1回程度の案件拒否であれば大きな問題にはならないケースが多いです。しかし、2回以上続けて断ると、会社側も「この社員は扱いにくい」と判断し、評価に影響が出る可能性が高まります。
次の案件紹介の優先順位が下がる
営業担当者は、複数のエンジニアを同時にマネジメントしており、その中で案件を紹介する優先順位を決めています。案件を断るエンジニアに対しては、「この人には良い案件を紹介しても断られる可能性が高い」と判断され、紹介の優先順位が下がることがあります。
営業担当者も人間であり、案件を快く受けてくれるエンジニアに対しては「この人のために頑張りたい」と感じる一方で、わがままを言うエンジニアに対しては「良い案件は他の人に回そう」という心理が働くのは自然なことです。
| エンジニアの態度 | 営業担当者の心理 | 結果 |
|---|---|---|
| 案件を快く受ける | この人のために良い案件を探したい | 優先的に良い案件が紹介される |
| 案件を断ることがある | この人には案件を紹介しにくい | 紹介の優先順位が下がる |
| 頻繁に案件を断る | この人には案件を紹介したくない | 条件の悪い案件しか回ってこなくなる |
優先順位が下がると、結果的に条件の良い案件が回ってこなくなり、さらに条件の悪い案件を提示されるという悪循環に陥る可能性があります。営業担当者との良好な関係を維持することは、長期的なキャリア形成において非常に重要です。
給与カットの可能性がある
案件を断った結果、次の案件が決まるまでの待機期間が長引くと、会社によっては給与カットの措置を取ることがあります。正社員であっても、待機期間中は会社にとって利益を生まない状態であるため、給与を減額するケースが存在するためです。
待機期間中の給与については、会社の就業規則や雇用契約によって異なりますが、一般的には基本給の60%から80%程度に減額されることが多いです。長期間待機が続くと、生活にも影響が出るため注意が必要です。
- 待機期間中の給与が60%から80%に減額
- 案件が決まるまでの期間が長引くリスク
- 生活費への影響
- 雇用形態の変更提案(正社員から契約社員へ)
また、案件を頻繁に断ると、会社側から「正社員として雇用し続けることが難しい」と判断され、契約社員やフリーランスへの移行を提案されることもあります。これは、会社にとって待機期間中の給与負担を軽減するための措置です。最悪の場合、契約解除や解雇のリスクもあるため、案件を断る際は慎重に判断する必要があります。