SES契約における支援費対応とは
SES業界で商流の調整を行う際、「支援費対応」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。支援費対応とは、SES契約における商流から企業が抜ける際に発生する謝礼金や手数料のことです。
支援費対応が発生する場面として、以下の2つが挙げられます。
- 商流から抜ける際の謝礼金
- 案件紹介に対する紹介料
商流の調整では、売り手と買い手の金額がマッチせず契約できない場合に、中間企業が商流から抜けることで取引条件をクリアできます。その際、商流から抜けた企業に対して支援費を支払う仕組みが支援費対応です。以下では、支援費対応の基本的な内容について詳しく解説していきます。
支援費対応の定義
支援費対応とは、SES契約において商流から企業が抜ける代わりに受け取る謝礼金のことで、営業支援費やコンサルティング費用と呼ばれることもあります。具体的には、エンド企業から案件に参画する要員までの間に仲介している企業が、商流から外れる際に発生する費用です。
例えば、エンド企業→元請け→A社→B社という商流があり、元請けとA社の間で取引条件が合わない場合を考えてみましょう。A社が商流から抜け、元請けが直接B社と契約することで取引条件がクリアされます。この際、A社は商流から抜けた謝礼としてB社から営業支援費を受け取ります。
支援費対応は約20年前からSES業界に存在しており、当時は「コンサルティング契約」という名称で呼ばれていました。商流制限により取引ができない場合でも、この仕組みを活用することで案件の機会損失を防げるため、SES業界では一般的な商慣習として定着しています。
支援費対応が発生する場面
支援費対応が発生する主な場面は、商流制限により直接取引ができないケースです。SES業界では商流が深くなるとトラブル発生時に状況が複雑化しやすいため、あらかじめ商流制限を設定している企業が多く存在します。
商流制限の具体例として、以下のようなケースが挙げられます。
| 制限の種類 | 内容 |
|---|---|
| 次数制限 | 2次請けまで、3次請けまでといった制限 エンド企業から数えた階層数を制限 |
| 金額制限 | 売り手と買い手の単価差が一定以下の場合の制限 逆ザヤや赤字を避けるための措置 |
これらの制限により直接取引ができない場合でも、中間企業が商流から抜けて支援費を受け取る形にすることで、案件を成立させることが可能になります。特に大手SIer案件のような大きな案件を獲得する際には、商流がある程度深くなる必要もあるため、支援費対応は実務上重要な役割を果たしています。
SES契約における支援費の仕組み
支援費対応を適切に活用するためには、商流から抜ける理由と支援費の相場を理解しておく必要があります。SES契約では、売り手と買い手の金額がマッチしない状況や商流制限により、中間企業が商流から抜けるケースが頻繁に発生します。
支援費の仕組みには、以下の2つの側面があります。
- 商流から抜ける企業側の利益確保
- 案件を成立させるための調整機能
中間企業が単に商流から抜けるだけでは利益が発生しないため、商流から抜けた謝礼として支援費を受け取る仕組みになっています。この支援費により、案件紹介や商流調整を行った企業も適切な利益を確保できます。以下では、支援費の具体的な仕組みについて解説していきます。
商流から抜ける理由
SES契約において企業が商流から抜ける理由は、主に取引条件のミスマッチを解消するためです。例えば、エンド企業→元請け→A社→B社という商流で、元請けがA社に月額70万円で発注し、A社がB社から月額75万円で仕入れる場合、A社は5万円の赤字となります。
このような逆ザヤの状況では、A社が商流から抜けて元請けとB社が直接契約することで問題を解決できます。元請けがB社に月額75万円で直接発注すれば、取引条件がクリアされ契約が成立します。A社は商流から抜ける代わりに、B社から営業支援費を受け取る形で利益を確保します。
また、商流制限により取引ができない場合も、商流を抜けることで契約を成立させることができます。大手SIerは新規ベンダーに発注する際に社内工数がかかるため、既存ベンダー経由で発注する方がプロジェクト組成がスムーズになります。このような場合、既存ベンダーが商流に入りつつも実際の開発は別会社に発注し、営業力を活かして案件を持ってくる役割を果たします。
支援費の相場と計算方法
営業支援費の相場は、案件の月額単価や契約期間によって異なりますが、一般的には月額単価の5%から15%程度とされています。具体的な金額は、案件の規模や商流の深さ、企業間の関係性によって変動します。
| 月額単価 | 支援費率 | 月額支援費 |
|---|---|---|
| 60万円 | 10% | 6万円 |
| 80万円 | 10% | 8万円 |
| 100万円 | 10% | 10万円 |
支援費の支払い期間は、エンジニアが稼働している期間中に継続して支払われるのが一般的です。例えば、月額80万円の案件で支援費率が10%の場合、エンジニアが6ヶ月稼働すれば、商流から抜けた企業は月額8万円×6ヶ月で合計48万円の営業支援費を受け取ることになります。
ただし、支援費の金額設定には注意が必要で、あまりに高額な支援費を設定すると実質的なマージンが大きくなり、結果的に末端のエンジニアの単価が低くなってしまいます。商流が浅い案件でも、複数の中間業者が営業支援費を受け取り続けることで、見かけ上の単価よりも実際の手取りが少なくなるケースも少なくありません。
SES契約で支援費対応する際の注意点
支援費対応を行う際には、契約内容の明確化と法的リスクの回避が重要です。SES契約では偽装請負などの法律違反が発生しやすいため、支援費に関する取り決めも適切に文書化しておく必要があります。
支援費対応で注意すべき点として、以下の3つが挙げられます。
- 契約書への明記
- 商流飛ばしとの違い
- 法的リスクの回避
特に商流飛ばしは、中間企業からの承諾を得ずに商流を飛ばす違法行為であり、支援費対応とは明確に区別する必要があります。適切な支援費対応を行うことで、案件の機会損失を防ぎつつ、全ての関係者が納得できる形で取引を成立させることができます。以下では、支援費対応を行う際の具体的な注意点について解説していきます。
契約書への明記
支援費対応を行う際には、営業支援費に関する内容を必ず契約書に明記する必要があります。口頭での約束だけでは、後々トラブルが発生する可能性が高いため、文書での取り決めが不可欠です。
契約書に盛り込むべき項目は以下のとおりです。
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 支援費の金額 | 月額単価に対する支援費率 または固定金額を明記 |
| 支払い期間 | エンジニアの稼働期間中の継続支払い または一時金としての支払い |
| 支払い方法 | 銀行振込などの具体的な方法 支払いサイクル(月次など) |
| 契約解除条件 | エンジニアが途中離脱した場合の扱い 契約違反時の対応 |
また、支援費対応を行う背景や理由も契約書に記載しておくと、後々の確認がスムーズになります。例えば、「商流制限により直接取引ができないため、A社が商流から抜け、その対価として営業支援費を支払う」といった形で、支援費が発生する経緯を明確にしておきましょう。
法的リスクの回避
支援費対応を行う際には、商流飛ばしとの違いを明確にし、法的リスクを回避する必要があります。商流飛ばしとは、中間企業からの承諾を得ずに商流を飛ばして直接契約する行為で、SES業界では推奨されていません。
支援費対応と商流飛ばしの違いは以下のとおりです。
| 項目 | 支援費対応 | 商流飛ばし |
|---|---|---|
| 中間企業の承諾 | あり 事前に合意を得る |
なし 無断で商流を飛ばす |
| 中間企業の利益 | 営業支援費を受け取る | 利益が発生しない 排除されていることを知らない |
| 法的評価 | 合法的な商慣習 | トラブルの原因となる 推奨されない行為 |
商流飛ばしは、商流の間にいる企業に知らされず行われることが一般的で、トラブルの原因となる場合が多いです。一方、支援費対応は全ての関係者が事前に合意したうえで行われるため、法的リスクは低いと言えます。ただし、支援費の金額設定があまりに高額な場合、実質的な中間搾取と見なされる可能性もあるため、適切な金額設定を心がけましょう。